定年退職後も学び続けて、辿りついた地域子育て支援という生きがい

宮城県白石市の放課後子ども教室の総括コーディネーターを務める72歳の櫻田和子さん。特別支援学校をはじめとする長年の教職経験を経て、現在はベビーマッサージやヨガ、読み聞かせ、親子支援など、多岐にわたる活動で地域の子育て家庭に寄り添っています。今回は、そんな櫻田さんにこれまでの歩みと、現在の活動、そしてベビーマッサージとの出会いについてお話を伺いました。


教師として働きながら、大学院にチャレンジした40代

櫻田さんの教育のキャリアは、高校の非常勤講師から始まり、中学校、小学校、そして特別支援学校へと進み、およそ37年間にわたり多様な子どもたちと向き合ってきました。特に定年までの30年は、支援学校で知的障がい児や肢体不自由児の養護訓練に深く関わるなど、専門性を高めながら、丁寧に子どもたちの発達と生活に寄り添ってきました。

「支援学校は教科担任制ではなく、生活そのものに寄り添うような教育。教科の枠にとらわれず、音楽や体育、日常の支援も含めて全体を見る必要がありました。」

そうした実践の中でも探究心を忘れることはありませんでした。40代の頃には、勤務先の支援学校の隣にあった仙台体育大学の先生からお誘いいただき、社会人枠で大学院に入学。日中は学校現場で働き、夜は大学院で学ぶという生活を2年間続けてこられました。子どもの発達を多面的に理解しようとする探究心が、現在の活動の礎となっています。

定年後、教師の経験を買われ、「放課後子ども教室」の現場へ


定年退職後、しばらくは親の介護や家のリフォームに専念していましたが、白石市から*放課後子ども教室の総括コーディネーターの声がかかり、再び子どもたちの現場に戻ることとなります。

「地域と学校をつなぐ活動には、学校現場を知る人間が必要だったようで。最初は迷いましたが、条件を柔軟に調整していただけたことで引き受ける決意をしました。」

プログラムの企画や市内教室スタッフとの連携、県主催の会議や発表など、多方面にわたる業務を担いながら、実際に現場にも足を運び、子どもたちとの関わりを大切にしています。

*「放課後子ども教室」は、すべての児童が参加できる場として、小学校の空き教室などを利用し、地域の方々が中心となって運営しています。ここでは、学習支援やスポーツ、文化芸術など、多様な交流・体験活動が行われ、子どもたちが安心して過ごせる居場所を提供しています。

赤ちゃんの時期の大切さに気づいて始めたベビーマッサージ

櫻田さんがベビーマッサージと出会ったのは、退職後、さまざまな親子活動を展開する中でのこと。保育園や幼稚園との関わりを通して、「幼児教育の重要性」に改めて気づかされたといいます。

「それまで幼児と深く関わる機会がなかったんです。でも、保育現場を訪れる中で、“触れ合いが足りないかも”と感じる場面があって。それがベビーマッサージに興味をもったきっかけです。」


2019年、日本アタッチメント育児協会の講座を受講。ちょうどその頃、地域の子育て支援グループから「ベビーマッサージをしてくれる人を探している」との連絡が入り、修了証が届く前にもかかわらず、すぐに実践の機会が訪れました。

「『大丈夫だからやってみて』と言われて、本を片手にドキドキしながら始めたのを覚えています。」

その後、地域の親子を対象にしたベビーマッサージの活動を少しずつ広げていこうとしたところ、間もなくコロナ禍に突入し、活動はやむなく中断。

発達を心配する声に答えるために、もう一度学びなおそうと思った

再び意欲が芽生えたのは最近のことでした。

「知人の0歳児の娘さんの発達を心配する声を聞いて、もう一度きちんと学びたいと思ったんです。」

そう語る櫻田さんは、改めて2025年5月にアタッチメント・ベビーマッサージ講座を再受講。2019年の初受講とは異なり、現場経験を踏まえて受けた再受講の学びは、アタッチメント理論や意義がより深く実感できる内容となったといいます。現在は、市の生涯学習課での講座としてベビーマッサージの実施が決まり、「1回だけで終わらせず、少しずつでも続けていきたい」と意欲を語ります。

アタッチメントを軸に、多彩なプログラムを独自に展開


また、幼稚園や保育園、小学校、図書館などで、遊びの指導や絵本の読み聞かせ、ヨガを取り入れた親子活動を行っています。日本アタッチメント育児協会のアタッチメント・ヨガ、他団体で取得したキッズヨガの資格、さらに絵本の知識を活かし、絵本とヨガを組み合わせたプログラムも展開中です。

あそびの指導では、「ムーブメント」の活動に、アタッチメント・ジムで学んだ要素を組み合わせ、親子で楽しめるかたちで実践しています。

参加した保護者からは、「久しぶりに子どもと手をつないだ」「もっと遊んであげたいと思った」といった感想が多く寄せられています。

「子どもと触れ合いたくても、なかなか家庭ではできない。それを補う場として、親子活動はとても意味があると思います。」と語ります。

アタッチメントを肌で感じてもらう活動を届け続ける


乳幼児期はあっという間に過ぎてしまうからこそ、アタッチメントの重要性を頭で理解するのではなく、触れ合いを通じて「肌で感じてほしい」といいます。

「ベビー期って本当にあっという間。この1年、2年なんてすぐ過ぎちゃいます。でも、この時期が子どもの育ちにとって本当に大事なんです。」

一方で、「遅すぎることはない」というメッセージも忘れません。

「たとえ子どもが大きくなっていても、アタッチメントに“遅すぎる”なんてことはない。発達に応じた関わり方は、いつからでも始められるんです。」

こうした安心感を、多くの親に届けてきました。これからも、櫻田さんは地域のあちこちに足を運び、親子の絆を育て続けていくことでしょう。


櫻田 和子さん(宮城県)/ 放課後子ども教室の総括コーディネーター

コメントは受け付けていません。

このページの先頭へ