赤ちゃんとお母さんの“心”にふれる支援を

島根県の隠岐の島にて、40年間にわたり保育士として勤務された長崎八重美さん。現在は地域子育て支援センターで、ベビーマッサージや育児相談を中心に、お母さんたちに寄り添う活動を続けておられます。今回は、長崎さんのこれまでの歩みと、今大切にしている支援のあり方についてお話を伺いました。

保育士としてのキャリアと資格取得のきっかけ

長崎さんは保育士として40年勤務され、そのうち保育所長も務められました。定年退職後、同法人内の地域子育て支援センターに異動し、現在に至るまで約6年、地域の親子支援に尽力されています。

ベビーマッサージインストラクターの資格を取得されたのは、乳児保育所の所長を務められていた2012年。当時、0歳児の赤ちゃんに何かできることはないかと考え、春にすぐ大阪会場で講座を受講されたそうです。

さらに2023年には、育児セラピスト1級を取得。支援センターでの育児相談のなかで、経験だけでなく、理論に基づいたアドバイスをしたいと感じたことがきっかけでした。「経験だけでは曖昧になりがちだったことに、学術的根拠が加わり明確な言葉を持てるようになりました。」と語ります。

地域子育て支援センターでの活動

現在、長崎さんは月2回、支援センターにてアタッチメント・ベビーマッサージ教室を開催。その他にも、離乳食講座や個別の育児相談など、多岐にわたる支援を行っています。参加者は生後2ヶ月から2歳前後までの乳幼児とその保護者です。

特に印象的なのは、初めて参加されたお母さんには、長崎さん自らハンドマッサージを行うという取り組み。「手にふれることで、お母さんとの距離が縮まり、信頼関係が築きやすくなるんです。」と話します。マッサージをしながらお母さんの気持ちを聞き、どんな悩みを抱えているのか、そっと汲み取る時間にもなっているそうです。


教室の運営と工夫

教室では、事前に申し込みがあったお子さんの月齢を確認し、その日集まるメンバーに応じて内容を調整。6ヶ月の赤ちゃんが多い日は、言葉の発達や離乳食についての話題を中心に取り上げるなど、月齢や関心に合わせた情報提供を行っています。

マッサージの内容もその場で柔軟に対応。参加者が少なければ全身を行い、多い日は仰向けの姿勢に限定して、赤ちゃんへの負担を減らしています。

「毎回参加者の顔ぶれが違うので、その日その日で流れが変わります。だからこそ、一人ひとりに寄り添う意識を大切にしています。」と長崎さん。


保護者の声から見える“ふれあいの力”

参加者からは、さまざまな嬉しい声が届いています。

「初めてベビーマッサージを体験しました。人から教わることであたたかみを感じながら子どもと触れ合う時間になりました。」

「インスタなどでベビーマッサージはかじっていましたが、基本的なところや手の形・ポイントなどをわかりやすく教えていただいて嬉しかったです。」

「ベビーマッサージは赤ちゃんだけでなく母の癒しにもなると先生がおっしゃっていて、その通りでした。」

こうした声の一つひとつが、支援者と保護者の信頼関係を築き、教室の継続的な参加につながっています。

地域とのつながりと課題

島外から移住した家庭の参加は多い一方で、地元の方の参加は減少傾向にあるとのこと。特に身近なママ友・親・祖父母がそばに居る家庭では、「わざわざ支援センターに行かなくてもいい」という意識もあるようです。

そのように子育て支援センターに足を運ばないお母さん達にも、穏やかに赤ちゃんと向き合って、育児を楽しんで欲しいと願っています。そうして外に出てこられないお母さんには、こちらから訪問するような形で関われたら、と今後の展望を語ります。

「検索」よりも「会える支援者」を

現代の子育てでは、スマホで情報を検索することが一般的になりましたが、長崎さんはそれに警鐘を鳴らします。「検索で出てくる情報は一般論。でも、お母さんの前には“その子だけの育ち”。だから、赤ちゃんの様子を実際に見ながら話を聞ける人が必要なんです。」

これからも、自分が“会いに行ける支援者”として、赤ちゃんとお母さんのそばにいたい。そんな思いが、島の暮らしに静かに息づいています。


最後に

40年の保育経験とアタッチメントの学びを融合し、地域で実践を続ける長崎さんの姿勢は、これから資格取得を考える方や、活動を始めたばかりのインストラクターにとっても大きなヒントとなるでしょう。

「肌と肌、心と心をふれあわせる子育て支援」。それを体現する長崎さんのあたたかい支援は、今日も島の親子をやさしく包み込んでいます。


長崎 八重美さん(島根県・隠岐の島)/ 元保育所長

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