

Interview
現在70歳の渡邉直子さんは、小中学校の相談員として長年勤務し、同時に民生委員としても地域の子どもや家庭を支えてきました。相談室に訪れる子どもたちの中には、愛情を十分に受け取れずに育つ姿もあり、「理屈ではなく、触れる体験を通じて愛情を伝えたい」という思いから、アタッチメント・ベビーマッサージを学ばれました。
58歳のときには義両親の介護を機に仕事を退職し、人生の転機を迎えましたが、これまでに学んだアドラー心理学やアタッチメント・ベビーマッサージの知識が、その後の活動の大きな支えとなりました。そのあと、地域の支援センターから声がかかり、第二の人生として親子支援の道を歩み始め、現在はスタッフや仲間とともに子育て支援センターやこども園にて親子を支える活動を続けています。
渡邉さんがベビーマッサージに出会ったのは、まだ中学校の相談員として現場に立っていた頃のことです。思春期の「寂しさを抱えた」生徒たちに向き合う中で、「言葉で語りかけても届かないこともある」という葛藤を抱えていたといいます。
「理屈を話しても、“うるせえ”で終わってしまうこともありました。」
こうした体験から、愛情の伝え方は「言葉」と共に「体験」であると実感。誰かに触れられた記憶は、たとえ一度きりであっても心に残る。その経験を積み重ねることこそが、愛着のはじまりであり、将来、彼らが親になったときの親子関係にもつながっていくのではないか。そうした想いが、アタッチメント・ベビーマッサージ講座へと導きました。
アタッチメント・ベビーマッサージ講座を受け、感じたことは、「大人の私がこんなに心地いいなら、子どもはなおさら」とその力を実感したといいます。実際に生徒たちには、ハンドマッサージを行うと、表情が緩んだ反応を見せたという。その体験から「目に見えないものが伝わる力」の大切さを実感。触れることは非認知能力(感情の安定や共感力など)を育むうえで重要であり、誰かに「触れてもらう」という経験は、その子にとって大切な時間になるのではないかと語ります。
ベビーマッサージ講座受講後は、キッスマッサージやアタッチメント・ジム、育児セラピスト1級、アタッチメント・ヨガ、育児セラピスト トレーナー、プレスクールあそび発達、発達支援アドバイザーを続けて受講してきました。
アタッチメント育児協会のさまざまな講座を受講し続けてきた背景には、「人に何かを伝えるからには、責任が伴う」という強い思いがあったといいます。特に初めての育児の方で、愛情深く心優しいお母さんたちほど、不安や迷いを抱えていることを感じていました。そうした方々に対して、経験や感覚だけで伝えるのではなく、学びを通じて理解を深めた上で言葉にすることが重要だと考えるようになり、それが現在の、根拠ある支援の土台となりました。講座を重ねることで、知識が点から線となり、やがて「自分の中で納得できる面」として形づくられていく手応えを感じたといいます。
「伝えるには根拠が必要でしたし、それは結果的に私自身の安心にもつながっていました」と語ります。
講師を務める子育て支援センターの教室「アタッチメントベビーマッサージと勇気づけ」は、今年で12年目を迎えます。当時は、希望者が多く予約制で、断らなければならない状況が続いたといいます。現在は、参加される方が育休中の母親が多く、10組前後で声が届きやすい環境にて開催。参加費については、行政の子育て支援事業の一環として実施しているので、無料です。
「アタッチメントベビーマッサージと勇気づけ」教室はベビーマッサージをベースにしながら、20数年来学んできたアドラー心理学の「勇気づけ」の考え方を組み合わせた、独自のスタイルが特長です。
特に印象的なのは、「ラブメッセージ」の時間。マッサージをしながら、「〇〇ちゃん、大好きだよ、宝物だよ、生まれてきてくれてありがとう、大丈夫!」とメッセージを届けています。さらに最後の10分では、ママたち自身にもその言葉を受け取っていただく体験をしてもらっています。「〇〇さん、大好きだよ、生まれてきてくれてありがとう」と。会場に笑顔が広がります。
「ママたちにも、自分に〇(まる)をつけてもらいたい」と話し、赤ちゃんだけでなく母親自身にも寄り添うことを大切にしていらっしゃいます。
「ふれあい」の力を伝える実践の場は、子育て支援センターにとどまらず、地域にも広がっています。地元のこども園では、年長児(5歳児)を対象に、10年以上にわたり続けている取り組みがあります。その活動の内容は、自分の体に「ありがとう」と声をかけながら触れるセルフマッサージや、友達同士でマッサージをし合いながら「大好きだよ!」「たからものだよ!」「生まれてきてくれてありがとう!」「だいじょうぶ!」などのラブメッセージを伝え合うというもの。これは、アタッチメントと社会性の両面を意識したもので、子どもたちが「自分は大切な存在だ」と感じられるような機会をつくっています。
活動のなかで、子どもたちに「自分のことを大好きって言ってもらったことある?」「自分のこと好き?」と問いかけると、手を挙げられない子どもがいるといいます。家庭で愛情表現が十分に伝わっていない可能性も感じられるからこそ、友達からのラブメッセージは、子ども時代のかけがえのない大切な体験、思い出になるのではないかといいます。
「ラブメッセージを送り合っている子どもの表情は、照れくさそうに、嬉しそうに、そしてニコニコしながら、『ありがとうございます!!』と。とても可愛らしいです。」と語ってくれました。
近年、育児休暇後すぐに保育園やこども園へ子どもを預ける家庭が増えるなか、保育者が“母親に代わる存在”として子どもと関わる機会が多くなっています。こうした社会の変化を受け、今後は保護者だけでなく、日々子どもと接する保育者にもアタッチメントの視点や方法を伝えていきたい。また、ふれあいを通して子どもたちの心に安心感や信頼関係を育む支援を、保育現場にも広げていきたい。と今後の展望を語ってくださいました。
渡邉 直子さん(静岡県) 主婦・子育て支援者
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