北欧 フィンランド、スウェーデン 最新「幼児教育・子育て支援」事情

スウェーデン・ストックホルム市
公立保育園(プレスクール)

次に訪れたのは、ストックホルム市内の公立保育園だ。スウェーデンでは、1998年に幼稚園と保育園が、プレスクールとして一元化され、厚生省(本来スウェーデンでは社会福祉庁だが、便宜上ここでは厚生省で統一している)から文部省の管轄になった。この背景には、1970年代以降、専業主婦が減っていき、ついには、ほとんどの女性が、子どもを産んだ後も働くようになり、幼稚園の必要性がなくなった(保育時間が短いため)ことにある。相反して保育園のニーズは高まっていった。

スウェーデンの政策が優れている点は、管轄を文部省にして、保育園を学校化してプレスクールにした点だろう。国民のニーズは、共働き世帯のための保育であるのだから、本来なら厚生省が管轄する保育園を充実させることも出来た。しかし、スウェーデン政府は、学校(プレスクール)に保育機能を持たせ、文部省管轄としたのだ。これによって、保育士は、「学校の先生」となったのだ。このことは、保育士の社会的ステータスを押し上げた。これまで、スウェーデンでは保育士という職業は、ステータスの低い職業として認知されており、給与水準も一般的な職業に比べ低かった。そのため、高まる保育園需要に対して、恒常的な保育士不足の問題を抱えていたのだ。これに対して、まずステータスの問題を解決したのだ。

それと同時に、保育士給与の引き上げにも取り掛かった。スウェーデンのプレスクールは、高校卒業資格でなることができる保育士と、大学の専門家を卒業してなるプレスクールティーチャーによって、保育(教育)が行われる。ティーチャーは、リーダーとして保育の進め方やプログラムを決め、複数の保育士と共にチームで保育を行う。改革当初、政府は、まず最初に絶対数が足りていないティーチャーの給与水準を、2700~3200クローネ(月35~40万円)に上げた。これは、一般的な職業よりも良い給与水準だ。そして、保育士の給与も2000~2500クローネ(25~32万円)と、一般的な職業の水準に引き上げた。

※単純に日本円にすると高給だが、物価が高いことと、税金が高いことを加味すると、額面の印象ほど高くはないが、それでも日本の保育士に比べたら十分に厚遇である

こうして、ステータスが向上し、給与水準も上がったことにより、今やスウェーデンでは保育士不足は、解消しているという。前に訪れたフィンランドでも、日本でも、同じ理由で保育士不足は深刻なのが現状なので、このスウェーデンの事例は、大変よい先行事例なのではないだろうか。しかし、そう考えると、日本のプレスクールである「認定こども園(幼保一体園)」は、厚労省と文科省の間をとったような総務省管轄なので、微妙な面持ちであることは否めない。

スウェーデンの公立保育園(プレスクール)には、もう一つ政策上の特徴と言えるものがある。それは、国が定める園の保育指針とカリキュラムである。ちょうど写真の園長先生が持っている冊子が、これを記したものだが、たったの21ページで構成され、大まかな内容が書かれているのみなのだ。具体的なカリキュラムやプログラムは、自治体と各園に一任されているのだ。

今回訪れた園のように、ストックホルム市内にある都市部の園もあれば、郊外の園や自然豊かな山間部の園もあるだろう。それぞれで、親の求めるものも違えば、出来るアクティビティも違う。政府は、そうした各園の特徴に対して、自由度を与えているのだ。いかにも幼児教育先進国らしい。

この園では、レッジョエミリアというイタリアの幼児教育法に基づくアプローチに基づいて、園全体のテーマを決めて、そのテーマに沿ってアクティビティを行っている。テーマは子どもたちの興味、関心に合わせて、適宜変えているそうだ。今のテーマは「土・風(空気)・水・火」だそうで、このテーマに沿っていろんなアクティビティやプロジェクトを組んでいた。ちなみに、レッジョエミリアのアプローチは、こうしたテーマを決めたプロジェクト活動のほか、アートや音楽などを取り入れて、創造性を育むことも重視する。

この日は、ちょうど「水」をテーマにしたグループが、氷を使ったアクティビティを行っていた。氷に、色のついた水をスポイトですくってかけたり、塩をかけたりして、氷の溶ける様子を体験するものだ。理科の学びであり、楽しい遊びとしても成立していて、子どもたちは、眼を輝かせて取り組んでいた。

最後に、日本からお土産で持って来た日本の紙風船を、園長先生に渡すと、近くにいた先生が「この玩具は、いま取り組んでいるプロジェクトにうってつけだわ」と言って駆け寄ってきた。そして、いま子どもたちが「空気」をテーマに、気球を作っていることを教えてくれ、「この風船は、教具としてうってつけです。」といっておお喜びしてくれた場面に出くわした。この先生の素早い反応と想像力には感心させられた。先生たちも、子どもたちに何をどう教えようか常に考え、ネタを探しているのだろう。

次のページ
北欧の幼児教育の現場を触れ、見えてきた日本の課題

この記事が気に入ったら
いいね ! しよう

コメントは受け付けていません。

このページの先頭へ