北欧 フィンランド、スウェーデン 最新「幼児教育・子育て支援」事情

スウェーデン・リデンギョ市 家庭的保育

「家庭的保育」という保育スタイルをご存じだろうか?日本でも都市部で導入されている仕組みだ。もともと、自分の子どもを家で世話するお母さんが、近所の子も一緒に面倒みるというもので、近くに保育園がない地区における保育の受け皿として機能してきた、北欧では昔からある制度だ。地方自治体から、子ども一人あたりの保育料として、補助金が支給されて運営され、4から6人くらいの子どもを、自宅で保育する。

家庭的保育は、保育者の子どもが保育年齢を過ぎると、保育者をやめてしまうことが多いため、年々その数は減り、今ではマイナーになってしまっているが、今回訪問した方のように、自分の子どもが卒業した後、一度は家庭的保育を辞めたが、また再開したケースもある。

今回訪問したグニラ・ユガンダーさんの家庭的保育所は、ストックホルム郊外のリデンギョ市という比較的高級な地区の集合住宅の中にあった。ドアに、私たち視察団を歓迎する飾り付けが施されているのを見ても、この家庭的保育者の方の温かみを感じる。

スウェーデンの国民は、家にお金をかけ、いつでも家をキレイに保つのが普通なのだそうだ。彼女の家も、本当にモデルルームのように片づいていて、てっきり我々が訪れるからキレイにしてくれたのかと思っていたが、どうやら、いつでもこのようにキレイに暮らすのがスウェーデン人らしい。

家庭的保育という語感の通り、グニラさんの保育は、時におばあちゃんのようにあたたかく、そして時には母親のように厳しく、まさに第二の家庭のようだった。一緒に遊ぶときは、自由に、そしてみんなが楽しめるように配慮し、われわれと話をしている時は、音を立てて遊んでいる子に「いまお話をしているから、静かに遊びなさい」とたしなめる場面もあった。その様子は、子どもたちと保育者の間に、しっかりとした関係性が出来ていることを見て取ることが出来た。

家庭的保育のよいところは、ひとりの保育者が、このように親のようにきめ細やかに接し、家のように過ごせることだろう。しかし、その裏腹として、集団生活を経験する場がないことが懸念される。また、保育者が病気などで保育できない時に、子どもたちは、どうなるのか、という問題もある。

この疑問に関して、彼女が答えてくれた。

彼女が手に持っている写真には、彼女自身(右から2番目)を含めて5人いる。全員が、それぞれに家庭的保育を運営している保育者だそうだ。彼女たちは、この5人で連携を組んでいる。もう一つの写真は、それぞれがあずかっている子どもたちが一堂に会して撮った写真だ。このように、定期的に合同で集団のアクティビティをやっている。また、保育者の誰かが休まなければいけない時は、子どもたちは、他の保育者のところで過ごす。さらに、この5人の家庭的保育に通う子どもたちは、普段から、お友達のおうちへ遊びに行くように、それぞれを行き来しているので、子どもたちも、他の保育者に親近感を持っている。

この連携システムは、自治体が主導しているわけではなく、グニラさんたち自らが連絡を取り合って、自主的に作ったものだそうだ。家庭的保育者は、それぞれが個人事業主である。つまり、保育者であると同時に、家庭的保育を運営する上で生じる様々なリスクを回避し、問題を解決しなければいけない経営者でもあるのだ。いわば、保育が好きで、子どもが好きで、親子をサポートしたいという志を持つ社会起業家のようなものである。だからこそ、このようなすばらしい「助け合い・補い合いシステム」を構築できているのだろう。この「助け合い・補い合いシステム」については、同行した大学の先生も、日本でも取り入れることが出来ると、大いに感心していた。

しかし、こうした家庭的保育は、前に訪れたフィンランドでも、そしてスウェーデンでも、どんどん減っているのも現実だ。日本では、待機児童問題の解決策として注目されているが、「保育を担う人材の問題」がカギとなるのだろう。

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幼児教育先進国らしさを感じた、保育方針とカリキュラムのあり方

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