北欧 フィンランド、スウェーデン 最新「幼児教育・子育て支援」事情

フィンランド・ロホヤ市 公立保育園

フィンランドを含め、北欧の保育事情において、もっとも驚かされるのは、日本で問題となっている「待機児童」などという言葉は無縁であるということだ。というのも、市などの自治体は、必要とするすべての親に対して、保育を提供する義務があり、これが守られないと罰せられることが、国の法律で決まっているのだ。 そして、そのための予算は、充分に割かれることが前提となっている。それだけ、保育と幼児教育に対する国のプライオリティが高いということだ。こうした法整備がしっかりしている一方で、保育園の運営は、自治体と園に任せられているため、現場の意見がより反映されやすい構造が出来ている。

さて、それでは早速、最初の視察を振り返ってみようと思う。飛行機を降りて、最初に訪れたのは、ヘルシンキの都市部から車で1時間半ほど走ったロホヤ市の公立保育園。自然豊かな住宅地の中の十分な敷地の中に、園舎がひっそりと佇んでいた。

この園は、開園して3年で、園舎や遊具は新築されたので設備は最新だ。いかにも北欧らしい洗練されたデザインが目を引く。この園を訪れて、いたく感心したことがある。それは、園内に配置された家具や備品類が、保育士の意見を取り入れて導入されていることだ。保育園で使われる園児用のイスや机というと、小さくて低いカワイイものを想像するかと思う。しかし、これは、保育士にとってはくせ者で、園児と接する際に常に膝を曲げてかがまなければならず、これを繰り返すことにより、保育士の多くは、年数を重ねると腰や膝を痛めてしまう。これは、保育士の職業病と言われている。

この園では、保育士たちのこうした声を反映して、園児の机やイスに、背の高いモノを採用している。これによって、保育士は、屈んだり、立ち上がったりする頻度が圧倒的に減り、腰や膝への負担を減らすことが出来ている。この問題に対する工夫は、それだけではない。例えば、園児の着替えを手伝う際にも、専用の着替え台があり、保育士が屈まなくても、着替えが手伝えるようになっている。 また、棚一つを見ても、保育士が読み聞かせる絵本は、高い位置に収納できて、園児が遊ぶおもちゃは、低い位置に収納できるような作りになっている。これらは、ちょっとしたことだが、保育士の労働環境を各段に良くしている。現場の保育士の声がないと、決して実現されない。それこそが、本当に素晴らしい。

感心したのは設備などのハード面だけではない。ソフト面においても素晴らしいポイントをみることができた。この園では、「子どもたちの体験」を非常に重視し、子どもたちが手足を動かして活動すること、特に野外での活動を促している。そうして体験の中から学び、社会性を身に付けることを目標としている。これ自体は、どの国でも、どの園でも大事にされている正論だが、これを実践し、園の文化として、親と園でこの考えを共有している点が素晴らしいのである。入園時に、先生は親にこんなことを伝えるらしい。

「たんこぶのない子どもなんて、不健康ですよ!」

なんと、ステキな例えではないか!子どもは、小さな痛い目を、たくさん被ることで、大きな危険を回避する感覚が身につくものである。だから、子どもに小さなケガはつきものであるし、そうした経験の中から得るものは大きい。しかし、保育者として、心配なのは親の反応である。だから、はじめから、この素敵な考え方を親と共有しているのである。他にも、園児がケガをしてしまった時は、必ず親に知らせ、ケガをしてしまった状況や経緯を、丁寧に報告するようにしているという。その結果、この園に子どもを預ける親から、子どものケガに関するクレームは一切ないと、園長先生が話してくれた。

また、この園では算数や言語などのお勉強についても、あくまで体験の中で学べる範囲で行っているそうだ。むしろ、お勉強よりも、社会性や協調性を育むことに力を入れているという。これに対して、親は「もっと勉強を教えて欲しい」というのかと思いきや、親の方も「勉強よりも社会性や体験が大事」という考えなのだそうだ。余談だが、OECDの学力調査(PISA)で、フィンランドが1位となったカギは、どうやらここらへんにありそうだ。

このように親と園とが、同じ方向を向いた関係が築けているのには、秘密がある。この園では、入園時に1時間の個別面談をして、毎月保護者会を行い、さらに、毎日の送り迎えの際に担当保育士が積極的に、そして丁寧にコミュニケーションすることで、親と園が同じ方向を向いていられる状況を作っている。つまり「信念と文化と価値観」を共有するための仕組みやルールが具体的な運営に組み込まれているのだ。国民性もあるのであろうが、日本もかくあるべきと思わされる次第であった。

そう言えば、今回の視察メンバーの一人の現役保育士が、これを聞いてつぶやいた一言が印象的だった。「送り迎えの時間に、親とゆっくり話をするなんて、日本では、とてもそんな時間はとれない。うらやましい。」確かに、園児数80人に対して、保育士を含めた職員が30名もいるからこそ出来ることなのかもしれない。いずれにしても、親と園とが「信念と文化と価値観」を共有すること、担当保育士と親が親密にコミュニケーションをとることは、これからの日本の保育においても、最重要視されるべきことであろう。

この保育園で、園児たちが食べる給食をいただいた!実においしかった!ちなみに、ペーパーナプキンは、マリメッコ製。

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フィンランドの保育士が抱える問題

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