今、社会に求められているアタッチメントの力

低出生体重や先天性の病気に 母親自責の念
(2014/1/25)

「NICU病棟でもベビーマッサージができる」/親子の気持和らげ愛着形成/退院後のサポート 「教室」開催へ

低出生体重で生まれた赤ちゃんや先天性の病気を持って生まれた赤ちゃんを集中的に管理・治療するNICU(新生児集中治療室)。親子の愛着形成を目指し、NICU病棟でアタッチメント・ベビーマッサージに取り組んでいる鈴木悦子・川口市立医療センターNICU看護師長に、その効果や可能性について聞いた。

鈴木氏

鈴木氏がNICU病棟にアタッチメント・ベビーマッサージを導入したのは5年前。他科から異動してきたばかりの鈴木氏は重症の新生児仮死で生まれ、人工呼吸器をつけた我が子の手をただひたすらさすっている一人の母親の姿が気になった。

「この母親が我が子のためにできることはないだろうか?」。鈴木氏はベビーマッサージを知る看護スタッフに、その母親に教えてくれるよう頼んだ。我が子にマッサージを始めると、いつもうつむき加減だった母親が看護スタッフと話すようになり、赤ちゃんの反応が見えてくると笑顔が出てきた。鈴木氏は「NICUでもベビーマッサージができる」と確信し、もう一人の看護師と共にインストラクター養成講座を受講。資格を取得してすぐ、ベビーマッサージを始めた。

「低出生体重児や障害のある赤ちゃんを産んだお母さんは自責の念を強く持っています。お母さんができることで赤ちゃんに与えられるものがあれば、少しは気持ちが楽になるのではと考えたことが、ベビーマッサージを導入したきっかけです」と鈴木氏は話す。

ベビーマッサージ

NICUでは治療が優先されるため母と子が離れ離れになる。退院が近くなり、母子が一緒にいられるようになった時がベビーマッサージを始める時期だ。ただ、一般の赤ちゃんのようにダイレクトにマッサージを始めることはできない。

「小さく生まれた子は非常に敏感で、さわられるのが嫌な赤ちゃんもいるのです。まずは、触れたり抱っこしたりして温もりを与え、安心感を得て、気持ち良さを感じてもらってからゆっくりとマッサージをしていきます。その子その子に合わせたやり方が大事です」

ベビーマッサージによってアタッチメント(愛着関係)が形成されて親子の絆を深め、退院して地域に帰っていく。しかし、そこで待ち受けているのは孤独な子育てだ。入院中は看護師や医師に相談ができ、同じような子どもを持つ母親と情報交換ができた。ところが家に帰るとそうはいかない。他の子と我が子を比較して落ち込むこともある。

「退院してからこそ、お母さんのサポートが必要です。川口市の保健センターがNICUを退院した親子を対象とした講座を開いているので、去年、その講座の一つとしてベビーマッサージ教室を提案しました」と鈴木氏。その提案が受け入れられ、現在、教室開催に向けた準備を進めている。

産後すぐのアタッチメント、大きな効果
医療現場からはじまる育児支援

廣島氏

今号では、医療現場での育児支援について考えてみたい。いま、多くの病院や地域の医院などで、育児支援の一環としてベビーマッサージ教室やマタニティヨガ教室が開催されている。病院の産科で、母親学級の延長として、資格を取った看護師が、院内で開催するのだ。病院も、こうした活動に対して積極的だ。

中には、NICU(新生児特定集中治療室)の赤ちゃんとそのお母さんに、ベビーマッサージを指導して効果を上げている事例もある。低出生体重児のように、生まれてすぐにNICUに入ると、母子は離れ離れになってしまう。そうしたケースでは、お母さんが産んだ実感が持てず、赤ちゃんに興味が湧かないことがある。そうしたお母さんに、ベビーマッサージを教え、実践を促すと、赤ちゃんに興味を示すようになり、子育てに前向きになる。これは、産後すぐにアタッチメントの営みを行ったことも大きい。その意味で、出産の現場である産科ならではの試みと言える。

また、地域の小児科医院などでも、ベビーマッサージ教室が開かれている。通常、病気やケガをした時にしか、お医者さんには行かないが、小児科医院の看護師が教室を開くと、病気やケガがなくても、クリニックを訪れる。そして、そこには同じ年齢帯の赤ちゃんとお母さんが集まり、コミュニティが出来る。つまり、小児科医院が、地域の「子育てハブ」として機能するのだ。それは、医者と患者の「理想的な関係」であり、同時に、医院の経営においても、好影響を与える。

これと同様の波は、歯科医院においても起こっている。歯を治してもらう以外の目的で、お母さんと赤ちゃんが歯医者さんに足を運ぶのだ。

病院などのように、子どもと親が集まる場において、医療行為以外の目的で集える機会を作ることが、理想的な育児支援となるばかりでなく、病院と患者の良い関係を作る。これからの病院経営の一つの形なのかもしれない。

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