ご存知ですか?それ、スマホ・ネグレクトって言うんですよ!

子どもの横でスマホをいじる母親を最近よくみかけます

スマホ・ネグレクト

最近、レストランやカフェでよく見かける光景・・・子どもを連れたママが黙ってスマホに集中している。あるいは、子どもに話しかけたり、子どもの話しかけに応答しているママもいるものの、目線と指先は、やはりスマホに集中している。そんなママの横にいる子どもは、大人しく座っている子もいれば、一生懸命話しかけている子もいます。

あるいは、お母さんの横で、子どもが手にスマホを持って、動画を静かに見ている光景や、乳幼児期の子どもが、訳も分からずスマホをいじって遊んでいる光景もよくみかけます。最近では、こうしたスマホしながら育児をする行為やスマホに育児をさせる行為を総じて「スマホ育児」と呼び、問題視する意見もあるようです。

確かに、これらの光景を傍から見ると、「なんとなく問題がありそうだ」という印象を持つ方は、多いと思います。では、実際のところ、こうしたスマホ育児に問題はあるのでしょうか。もし問題があるとすれば、一体何が問題なのでしょうか。今回は、それを考えてみたいと思います。

「スマホ育児」の光景を心理学的に説明すると

アタッチメントの専門家として言えば、これは、子どもにとって「あきらめのアタッチメント行動」となります。「あきらめのアタッチメント行動」は、ネグレクトされた子どもが最後に至る防衛行動です。ご存知の通りネグレクトは、虐待の一つです。

子どもがアタッチメント行動として、ママに話しかけたとします。それを相手してもらえないと、さらに「ねーねー!ママ~聞いてよ!」とさらに声を荒げ、アタッチメントが得られないことに「抵抗」します。それでも対応してもらえないと、子どもはママのアタッチメントに「絶望」します。そして、最終的に、あきらめて、アタッチメントから「離脱」します。離脱は「Detachment」つまり、「Attachment」アタッチメント(愛着)の対極です。離脱の状態に入ると、子どもはアタッチメント行動をそれ以上求めません。ただ、次にアタッチメント行動を満たしてくれる時を、受動的にジッと待つようになります。

この時、子どもは、ふてくされているのでも、怒っているのでもありません。ただ「あきらめ」ているのです。ネグレクトされた子どもというのは、例えば、食べ物を与えられなかったりします。そうした時に、最初は「抵抗」して、泣いたり、叫んだりしますが、「絶望」の段階に入ると、静かに黙って活動を止め「離脱」します。これは、余計なエネルギーを使わないようにして、より長く生命をつなごうとする子どもの本能的な防衛機能です。

スマホ育児は、ネグレクトに繋がってしまうかもしれない

スマホに夢中になっているお母さんの横で、一生懸命話しかける子どもは、「抵抗の段階」にいるので、まだネグレクトは成立していません。ここで、スマホを置いて子どもに応対してあげれば、問題ありません。しかし、それを放っておいてスマホを続けてしまうと、いずれ子どもは「あきらめ」て、静かにしているようになります。これは、絶望して「離脱の段階」に入っているので、ネグレクトが成立しています。スマホを触りながら応答した場合も、放っておくのと結果は同じです。アタッチメント行動は、目を合せて、心を向けて、愛情を持って、そして、その子だけに向けた時に、はじめて満たされます。「ながら」では、無視されているのと何も変わりません。子どもにスマホ持たせて静かにさせる行為も、「養育の放棄(アタッチメント形成機会の放棄)」という観点でネグレクトに分類できます。

※ ただし、スマホを介してお母さんが子どもと一緒に関わって遊んでいる場合は、ネグレクトにはなりません。ただし、子どもにスマホを触らせることは、認知発達に影響を与える危険性があるので、やはり推奨はできません。これについて詳しくは、「子どもにスマホは、百害あって一利なし」の記事をご参照ください。

こうしたスマホを介したネグレクト状態を、精神科医の岡田尊司先生は「スマホ・ネグレクト」と呼んでいます。ネグレクトは、程度の差こそあれ、虐待の一つの形であり、その代償は、小さくありません。スマホ・ネグレクトは、生命の危機に瀕するようなものではありませんが、ネグレクトであることに変わりありません。その影響として考えられるのは、愛着障害が挙げられます。愛着障害は、重度のケースから軽度のケースまでありますが、「自閉傾向」や「発達の凸凹、遅れ」を引き起こします。つまり、脳機能の発達(育ち)に問題が生じるのです。

お母さんに自覚がないのが一番の問題

ところで、このスマホ・ネグレクト、お母さんには、その自覚がありません。お母さんは、子どもの隣に座っていること、何らかの応答(らしきもの)をしていることで、何となく形になってしまっているのです。だから、罪悪感がないどころか、問題意識さえもないでしょう。また、子どもにスマホを持たせて、静かにさせるのも、子どもが静かに集中しているので、お母さんは、問題意識を持ちません。この「自覚の無さ」が、最も大きな問題です。

もう一つ問題なのは、知らない間に「スマホ依存症」になっているお母さんが増えていることです。座ったらスマホ、すきま時間があったらスマホ、電車に乗ったらスマホ、立ち止まったらスマホ、というように無意識にスマホを手にして、操作を始めてしまっている人は、もはや「スマホ依存症」の入り口です。「スマホ依存症」のお母さんの身近には、常にスマホがあるのです。これは、中毒症なので、なかなか抜けられません。これが、問題に拍車をかけています。

子どもの横でスマホ持つなら、罪悪感をもって!

スマホが当たり前となった現代は、「即レス」(すぐに返事すること)が求められます。そうしないと、人間関係が円滑にいかないようです。だからスマホを手放すのは難しいと思います。そして、子どもといるときにスマホを全く触らないのも、現実的ではないかもしれません。また、日常の育児の中では、スマホを与えて、子どもに静かにしていてもらう必要がある場面もあることでしょう。

ですから、スマホという便利な道具を、子育て全てにおいて否定することは出来ないと思います。その一方で、スマホを子育てに持ち込む「スマホ育児」によって、子どもの発達にとってとても大事な「アタッチメントの機会」が失われているのも事実です。そこで、2つの提案があります。

1. 子どもといるときは、出来る限りスマホをカバンにしまって、取り出さないで。もし、子どもの横で、スマホをいじる必要がある時は、なるべく短時間で終えて、子どもが応答を求めてきたら、スマホを置いてその場で応答してあげて!

2. 子どもにスマホを持たせて静かにさせるのは、必要最小限にして、スマホに相手させていた分、後でいっぱい話しかけて、関わって、遊んであげて!

「スマホ育児は、子どもとのアタッチメント形成にとって好ましくない行為だ!」ということを「知っていて行う」のと、「知らずにやってしまう」のには、大きな違いがあります。「好ましくない行為だ」と知っていれば、その行為を最小限にしようと脳が反応します(その行為を減らそうとします)。知らなければ、その行為は際限なく続きます(そこに罪悪感はありません)。この差は、とてつもなく大きいのです。

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