アレルギーは心配、でもやっぱりベビーマッサージはイイ
ミネラルオイルでベビーマッサージは、あり?なし?
先日おこなわれたアタッチメント・ベビーマッサージ講座のなかで、受講生の助産師さんからある質問をいただき、担当講師が答えに戸惑ったということがありました。その回の受講生の方には、事務局より後日回答をメールさせていただきました。その質問とは、以下のようなものでした。
『アトピー性皮膚炎に対して、保湿が有効であると言われています。ただし、アレルギー反応への懸念があるため、当院ではミネラルオイルであるワセリンを使用して保湿を行っています。ところが、アタッチメント・ベビーマッサージでは、セサミオイルをはじめとする植物原料のオイルが推奨され、ミネラルオイルはむしろ推奨されていません。ゴマアレルギーや他のアレルゲンのリスクを考えると、植物原料のオイルよりも、むしろミネラルオイルを使用するほうがよいケースもあると思いますが、そこはどのように考えれば良いでしょうか?』
担当講師が答えあぐねてしまうのも理解できる質問です。大変デリケートかつ、明確な正解のないイシューだからです。今日は、この件について考えていこうと思います。
話を整理するために、この質問を、「アトピーの赤ちゃんへのベビーマッサージ」、「ミネラルオイルの使用」、「植物原料のオイルの使用」の3つのイシューに分けます。
アトピーの赤ちゃんにベビーマッサージは良いの?
一つめは「アトピーの赤ちゃんへのベビーマッサージ」のイシューです。まず大前提として、アトピーに関しては、医学的にもさまざまな学説が存在しており、現段階ではなにも立証されてはいません。かつては、アレルゲンを絶つというのが主流でしたが、最近では、少量のアレルゲンを摂取することで好転するという学説もあります。何が正しいのかは、わからないというのが事実です。
それでも、質問者の方の指摘のとおり、「保湿する」というのは、どうやら良いと言えそうです。さらに、当協会に全国からご報告いただいている事例においては、アトピーの赤ちゃんにベビーマッサージを行ったところ、症状が好転したという事例は多数を占めます。逆に、悪化したという事例を聞いたことがありません。もちろん、これは、適切なオイルが使用され、正しくベビーマッサージが行われているという前提においての話です。
適切なオイルとは、皮膚に刺激をもたらさないオイルです。刺激を起こす主な要因は「オイルの酸化」です。酸化の要因は、不純物の配合、空気に触れること、紫外線にさらされること、などが考えられます。そこで、精製度が高くピュア(不純物が取り除かれた)で、新鮮で、紫外線にさらされていないオイルは、刺激をもたらすことなく、保湿を高め、マッサージを滑らかにしてくれて、さらに皮膚によく浸透しますので、ベビーマッサージに適しています。そのために、当協会の公認オイルは、薬品の保存に使う遮光ビンを容器にしており、流通においては精製から3か月以内に管理され、さらに購入から12か月以内、開封から1か月以内の使用を推奨しています。この基準は、オイルメーカーのそれよりもはるかに厳しいものです。
ベビーマッサージは、毎日のいとなみです。それは、肌と肌を触れ合わせるスキンシップのアプローチですが、同時にアタッチメントのいとなみでもあります。これを赤ちゃんにとって気持ちイイいとなみにするために、オイルは必要不可欠です。オイルがなければ、ベビーマッサージは摩擦が生じて刺激になってしまいます。(オイルを使わない場合は、別のやり方でおこないます)
さらにアタッチメント・ベビーマッサージの根拠となっているインド医学アーユルヴェーダに基づけば、それはセサミオイルの成分であるセサミンやセサモリンを摂取するいとなみでもあります。だから、オイルの精製度が高いこと、鮮度が高いこと、紫外線にあてないことの3つの基準を厳しくしています。
さらにアトピーについて言えば、そもそもアレルギー反応を起こさないようにすることが、もっとも重要です。そのために有効なのは、パッチテストです。二の腕の内側などの皮膚の薄い箇所(最も反応が出やすい)に、小さくオイルを塗って反応を確かめます。ここで皮膚が赤くなるなどの反応が出れば、オイルを使用することは中止します。後日アレルギー検査をして、何がアレルゲンになっているのかを特定し、それ以外の植物原料のオイルに切り替えます。その際のオイルの選定については後述します。
ベビーマッサージは、そこまでするに値します
こんな風に言語化すると、とても面倒なことのように感じてしまうかもしれません。それでもベビーマッサージは、間違いなくそこまでするに値します。さらに言うと、 実際にはそれほど大変なことはありません。
まず、セサミオイルが肌に合わないケースは、ごくわずかです。パッチテストの段階でそれがわかれば、むしろ初期対応が早くできます。むしろ、ベビーマッサージを続けたことで、アトピーが好転した事例が多数を占めます。もし、それでもアレルギーが心配ならオイルを使わないベビーマッサージでも、充分にその恩恵は期待できます。 正しく行えば、やらないよりは、やった方が良いことばかりです。 ベビーマッサージインストラクターは、やり方を教えるためではなく、 正しく行うための存在 です。
いま教育の分野で注目されている「非認知能力」(従来の知識の量や技術による勉強的要素ではなく、心のあり方やものごとの捉え方、考え方のことで、将来の学力や収入、健康の維持にまで関連する一生を通じて影響する能力のこと)の観点からも、ベビーマッサージは大いに有効です。なぜなら、「非認知能力」の土台は、アタッチメントそのものであり、アタッチメント機能を発達させることこそが、非認知能力の形成であるからです。
※「非認知能力」については、 理事長ブログ「いま幼児教育に求められるのは非認知スキル」 で解説していますので、興味のある方はこちらもお読みください。
ミネラルオイルは、実際のところどうなの?
二つめは「ミネラルオイルの使用」に関するイシューです。ベビーオイルは、ミネラルオイル(鉱物油)が主原料となっているものが多いです。ワセリンも石油を主原料とする鉱物油です。これらは、保湿を目的とした場合、とても有効かつ安全なものとして積極活用できるでしょう。実際、質問された助産師さんの院では、アトピーの赤ちゃんの保湿の目的でワセリンを使用しているとのことです。これは、アトピーの好転に役立っていると想像できます。
しかし、当協会では、 鉱物油をベビーマッサージに使用すること は推奨していません。それは、鉱物油を否定する意味ではなく、あくまで「ベビーマッサージにおいて」推奨しないのです。マッサージに使用した場合、肌のすべりをよくしてくれるのは、植物由来のオイルと変わりません。それでも、ベビーマッサージに推奨しないのには、理由があります。
鉱物油は、植物油に比べ肌に浸透しにくい性質を持ちます。それは鉱物油の保湿力の高さの所以でもあります。皮膚の表面に残った油分は、空気に触れること、紫外線を通すことで、酸化が進みます。そのため時間が経つほど皮膚への刺激要因となってしまいます。さらに、皮膚の表面に残ったオイルは、サンタンオイル(日焼けオイル)と同じ役割を果たし、太陽光だけでなく、蛍光灯などの紫外線にも反応します。
ミネラルオイルを長期にわたり日常的に使用したことによって、(大人の)皮膚が黒くなって、ガサガサしてしまったという報告があることは周知の事実です。これは、一種の日焼けの状態と考えれば納得がいきます。植物オイルの場合、皮膚から浸透していますので、こうした心配はありません。ましてや赤ちゃんの場合、大人の比較にならないくらいどんどん浸透するのです。
もちろん、その影響がどれほどのものかと言えば、大したことはないのかもしれません。むしろ、保湿力はミネラルオイルの方が高いので、より良い可能性もあります。それでもベビーマッサージが、毎日のいとなみであること、赤ちゃんの敏感な皮膚におけることだということを考えると、植物オイルを使っておいた方が、「リスクが少ない」というのは確かでしょう。
わたくしどもは、赤ちゃんに対することなので特に、「より良い」ことよりも、「より安全である」ことの方を重視します。大人の皮膚であれば、ある程度の丈夫さと耐性も期待できますが、赤ちゃんの場合そうはいかないからです。
わたしは、ミネラルオイルやワセリンを否定しているわけではありません。むしろ保湿の観点では、植物オイルよりも優れていると考えています。使用用途によっては、病院で採用されているように、ミネラルオイルやワセリンのほうが適しているケースもあるでしょう。あくまで「ベビーマッサージ」においては、リスクになる可能性を考え、よりリスクの少ない植物オイルを推奨しているということです。
なぜセサミオイルを推奨するのか
三つめは「植物原料のオイルの使用」に関するイシューです。当協会では、ベビーマッサージに使用するオイルとしては、植物原料のオイルを推奨しています。もっとも大きな理由は、先に述べた通り、「よりリスクが少ないから」です。
ただし、植物原料のオイルをベビーマッサージに使用することにも、リスクはあります。しかし、それはコントロール可能かつ回避可能なリスクです。その理由については、先に述べたとおりです。アレルゲンになってしまう可能性については、パッチテストによって回避できます。皮膚刺激の原因となる酸化についても、オイルの選定と管理によってコントロール可能です。しかも、それほど大変なことではありません。精製度の高いオイルを、新鮮な状態で入手して、涼しい程度の冷暗所で保管するだけです。開封後は1~3か月程度で使い切ることが理想ですが、これについては、毎日おこなっていれば、1か月で一ビンは無くなります。(そうなる量にしています)
当協会では植物原料のオイルの中でも、とくにセサミオイルを推奨しています。インドでは、(少なくとも)数百年にわたって、アーユルヴェーダに基づきセサミオイルを使って赤ちゃんにマッサージする風習があります。何も難しいことではなく、インドでは当たり前に行われていることです。この伝統は、いまも残っており、これからも続いていくことでしょう。アーユルヴェーダでは、オイルのよい成分が浸透して体内に取り込まれることは赤ちゃんによい影響があると考えます。もし、ここに悪い影響が少しでもあるなら、この風習は、時とともに消えたはずです。数百年の時を経て、残っているということそのものが、どんな学者の学説よりも信頼できる、もっとも大きな安全だと考えるのです。
そもそも、ベビーマッサージの起源は、1970年代、産科医のルボワイエ博士が、インドの伝統的な子育ての中で、赤ちゃんをマッサージする風習があることに着目したものです。だからわたしは、インドで行われてきたこの風習を、できるだけプリミティブな形で、そのまま継承したベビーマッサージを提供したいと考えるのです。
お母さんの手と赤ちゃんの肌を通した心のやり取り
ベビーマッサージにおいて、わたくしどもが重視するのは、オイルの効能ではなく、マッサージのやり方でもありません。お母さん(お父さん)と赤ちゃんの間に起こる、皮膚と手を通した心のやり取りと、それによって起こるアタッチメント形成こそが、ベビーマッサージの目的です。その先に、脳と心と体の発達があるわけです。
当協会では、お母さんにベビーマサージを教えるときに、「やり方や順番にとらわれなくても大丈夫ですよ」「赤ちゃんと目を合わせて、赤ちゃんが気持ち良さそうにしていれば、それが正解です」と伝えます。インストラクター養成講座は、先生になるためのものなので、やり方も順番もしっかり身につけます。しかし、お母さんに伝えるときには、「インストラクターは細かいことを言わないように」と指導します。その理由は、先に述べたベビーマッサージ本来の目的に由来するのです。
やって良いことはたくさんあれど、悪いことは一つもない
「ベビーマッサージをやりたい」という親御さんの気持ちの一方で、「アレルギーやアトピーへの懸念がある」というこの問題には、明確な答えがありません。とくにアトピーについては、医学的にもまだ解明されておらず、確かなことは何もありません。最終的には、親御さんの考えや方針によって判断いただくしかありません。
そのうえで、わたしは、赤ちゃんが産まれた親御さんには、ベビーマッサージを強くおススメします。オイルの使用が心配であれば、オイルを使用しないベビーマッサージでも良いと思います。 1歳を過ぎてしまったからもう遅い、などということもありません。3歳でも5歳でも、それぞれの発達段階に合ったマッサージのやり方(キッズマッサージ)があり、それぞれにアタッチメント形成の観点でたくさんの良いことがあります。
「やって良いことはたくさんあれど、悪いことは一つもない」のがベビーマッサージやキッズマッサージなのです。
一般社団法人日本アタッチメント育児協会
理事長