大学カリキュラムに資格が導入されることの意味と その社会的意義について考える

東京家政大学で、あらたに始まります

2023年度より新たに、東京家政大学 子ども支援学部 子ども支援学科 にて、アタッチメント・ベビーマッサージと育児セラピスト1級の資格がカリキュラム導入されることが決まりました。

そこで、今回はあらためて「大学カリキュラムに資格が導入されることの意味と、その社会的意義について考える」ということをテーマに書いてみようと思います。

大学でのカリキュラム導入における3つの目的とそこに込めた思い

「大学カリキュラムに導入されている」というと、一般的には“信頼性が高い”、“しっかりしている”、“安心できる”という形で社会的な評価をいただきます。この事実は、わたしたち協会にとってこの上なく重要な価値です。

しかし、こうした世間からの評価を得ることを目的としているわけではありません。わたしたちは、次の3つの目的とそこに込めた思いをもって、大学へのカリキュラム導入をおこない、運営しています。

1. 保育士を志す学生たちに、“アタッチメントの視点をもった保育士” になってほしい
2. 卒業時に、“保育士として武器となるもの=特技”をもって社会に出てもらいたい
3. 社会に出たあとも学び続け、スキルアップできる機会と場を提供し続けたい

そうした保育士が増えることは、保育や子育て支援の質を底上げすることになる。

12年経って、大学カリキュラムの目的と思いは、現実になっている

わたくしどもが、はじめて淑徳大学(当時は淑徳短期大学)へのカリキュラム導入を開始したのは、2010年のことです。あれから12年が経過して、3つの目的と思いは、実際に形になっていると確信しています。決して大きな変化ではないかもしれません。しかし、最初の学生が卒業して5年・10年経ち、わたしは、確実な手ごたえを感じているのです。

淑徳大学の卒業生のなかに、保育の現場に出て、5年、10年の経験を積んで、そののちに、わたくしどもの講座を学びに帰ってきてくれる人たちが出始めています。その人たちは、こんなことを言ってくれます。

「大学で取ったベビーマッサージの資格が、自分の武器であったことを、現場に出てみてはじめて実感しました。こんなことなら、もっと真面目に勉強しておけばよかった!」

「園の先輩が、資格のことを『スゴイじゃない!』とほめてくれました。だから、その期待に見合った活躍ができるように、もう一度アタッチメントを学びなおそうと思いました」

わたしたちのもとに届く声は、ほんのわずかです。しかし、こうした声のうしろには、同じように思っている人、同じような行動をしている人が何十人もいます。わたしは、そのことを経験から知っています。だから、わたしたちの目的と思いは、実際に形になっていると確信しています。

変わりゆく保育の現状と、これからの保育士

話は変わりますが、近年は、0・1・2歳児の保育の需要が高まっています。保育園や子ども園は、未満児保育の枠を増やし、政府の後押しで0・1・2歳のための小規模認可保育園が、全国で新たに開設されています。

これまで「保育」というと、3~6歳児でした。大学の保育士養成課程でも、重視してきたのは、この年齢帯です。ところが時代が変わり、保育のメイン対象は、いまや0・1・2歳児です。 こうした状況に対応するために、現場で働く現役保育士のなかには、0・1・2歳の保育と子育て支援を新たに学びなおし、それに対応するスキルアップ資格を取得する人が増えています。

これからの保育士に必須となる知識とスキル

「アタッチメント・ベビーマッサージ」や「育児セラピスト」の資格は、まさに、これにあたるスキルアップの学びであり資格です。多くの現役保育士が、ある程度のキャリアを積んだあとに、みずからスキルアップの必要を感じて、自分のお金と時間を使って、これらの資格取得に取り組んでいます。

保育士は、ベビーマッサージを通して、親子関係の育(はぐく)みや、親になること、これから始まる子育てについて、お母さんに伝えることが出来るようになります。さらに保育士がアタッチメント理論を学べば、保育や子育ての知識に厚みをもたせることができます。

さらに、ベビーマッサージを学ぶ課程では、現場で子育てを指南し、お母さんを導き、時には心のケアをする育児の専門家「育児セラピスト」としての知識とスキルをいっしょに学びます。

こうした知識とスキル、そしてそれを裏付ける資格は、少子化が進み、より質の高い保育が望まれるこれからの保育業界において、スタンダードとなりそうです。すべての専門職において、ますますこうした要素は強くなるはずです。

プラスアルファの資格を、大学で取得できるという価値

当協会の「大学認定校制度」は、こうした時代の変化に対応して、これから保育士になる学生に向けて、現場の保育士たちが実際に必要とし、活用しているプラスアルファの資格を、大学のカリキュラムのなかで修得できる制度です。

2023年度からあらたに導入が決まった東京家政大学の場合も、実際に大学および先生がたのつぎのような強い思いが形になった結果です。 

・学生たちが、これから保育士として社会に出て活躍するために、卒業までの4年間で必要な知識とスキルをすべて身につけてもらいたい。
・就職したら、即戦力として活躍できる保育人材を多数育成したい。
・大学を卒業したあとも、学び続け、スキルアップするための機会を持ってほしい

これは、私が冒頭にしめした「3つの目的と思い」と見事に合致します。このように、わたくしども協会と大学が、同じ思いで作り上げ、運営しているのが、大学カリキュラム導入による資格取得制度(大学認定校制度)です。

「ギブ・アンド・テイク」ではなく「共通の思い」をカタチにすること

一般的には、こんな風に思われるかもしれません。

大学は、「学生が集まりやすい、入学した学生の満足度を上げられる、学生の就職に有利」。協会は、「社会的信用が担保される、資格の価値があがる、知名度が上がる」。双方によるメリットのギブ・アンド・テイクで成り立っている。

この事実を否定はしません。むしろ、ありがたいこととして受けて止めています。しかし、これはあくまで副産物にすぎません。このような「ギブ・アンド・テイク」だけでは、一時的にうまくいったとしても、長くは続かないのです。わたしが見据え、重要視しているのは、「共通の思い」を持つ相手とともに、それをカタチにすることです。それによってのみ、制度は永続し、やがて社会的意義が生まれるのだと思っています。

共感の波、発展のムーブメント

わたしはよく、世の中が変わる仕組みを「共感の波、発展のムーブメント」という言葉で表現します。

小さな共感や刺激が、あちこちで発火し、それらが少しずつ長い時間をかけて広がっていく。いつしかそれはムーブメントとなる。結果として変化が起こり、世の中は発展する。

わたしたちと大学の「共通の思い」は、学生に伝わり、その学生たちが社会に出て、保育や子育て支援を変えていきます。そうした若い保育士たちに刺激されて、先輩保育士やベテラン保育士にも、熱が伝わって広がってゆきます。そうした営みを長い時間かけて行うことで、地域の保育と子育て支援の質は上がってゆきます。いつしか、われわれは「子育てしやすい社会」を生きていることに気づく。そういうものだと思うのです。

この思いは、最初に導入した淑徳大学はもちろん、その次に導入した宝塚大学、そして今回導入が決まった東京家政大学、すべてに共通して言えることです。

わたしは、この「共通の思い」を持てない大学とは手を組んでこなかったし、これからも組む気はありません。日本の保育や子育て支援は、まだまだ発展途上です。課題がたくさんあります。なかには、政治が動かないと解決しないものもあります。そんななか、少なくとも、この「大学認定校制度」は、現場から保育・子育て支援そのものの質を変える試みだと思っています。

保育と子育て支援こそ、少子化対策のカギとなる

“質の高い保育と子育て支援”が、あまねく受けられる国なら、親は、安心して子育てができます。それが保証されていれば、若者たちは、安心して親になることができます。新米ママやパパは、2人目、3人目に前向きになることができます。こうした考えが“あたりまえ”になれば、日本の出生率は確実に上がります。やがてムーブメントにまでなれば、第3次ベビーブームが起こる可能性だって期待できます。さらに話を広げれば、人口増は、そのまま日本の経済成長につながります。つまり、保育と子育て支援の質を上げること、それを10年単位で実現し続けることは、少子化対策、ひいては経済成長戦略そのものとして機能するということです。少し青臭く聞こえるかもしれませんが、わたしは、本心からそう思っています。

 

一般社団法人日本アタッチメント育児協会
理事長 廣島 大三

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