自己肯定感は、心の機能です

先日、タレントのryuchell(りゅうちぇる)さんの子育て観が、東洋経済オンラインのeducation特集で取り上げられていました。そのインタビュー記事の中で「実は“自己肯定感”という言葉は好きではないんです」と語っておられました。これは、なかなかよい視点だとおもったので、今回は、これをテーマに話そうと思います。

東洋経済ONLINE education特集 りゅうちぇるさんの記事はこちら>>

ご存じのとおり、ryuchellさんは、育児セラピスト1級資格をお持ちです。彼が受講した時、たまたま私も同じ会場で別の講義に登壇していたので、受講のすぐあとに、彼に少しお時間をいただいて、お話ししたことがありました。受講に至った経緯や感想、今後の展望などをお聞きしたのですが、非常に真摯に講座に取り組まれ、アタッチメントについても深くしっかりと理解されていたことが伝わりました。なかでも「“自己肯定感”の大切さを知ったので、もっといろんな人に伝えたい!」とおっしゃっていたのが印象的でした。そんなryuchellさんが「“自己肯定感”という言葉は好きではない」とおっしゃっているのを聞いて、とても興味が湧いたのです。そして、記事を読んで、「なるほど」と思った次第です。

そもそもアタッチメント理論では、“自己肯定感”は、人のパーソナリティの中核となるものです。しかし、世間ではその本質が間違って捉えられています。彼はそのことに気づいたのでしょう。「これでは本当に大事なことが伝わらない」そう思ったのだと思います。

アタッチメント理論でいう“自己肯定感”は、心の機能です。良い悪いではないし、ポジティブでもネガティブでもありません。この機能は、0~3歳くらいまでに、お母さん(主たる養育者)との間で最初に育まれます。その最も大事な働きは、ポジティブで居られることではありません。むしろ、ネガティブな体験や落ち込んだりしたときに、「それでもいいじゃん!」と言って立ち直るための機能です。心理学者エリク・エリクソンは、こういいます。「(0~1歳にできた)基本的信頼は、希望を生む。希望は、人生の苦難に対する支えとなる。」ここで言う基本的信頼は、自己肯定感と同じです。

自己肯定感が高いほど、生きやすいし、多くの困難を乗り越えられる、その結果、より人間成長するということです。近年、頭の良さや仕事の能力、あるいは幸せに生きるための要素として「非認知スキル」が話題にされます。じつはこの「非認知スキル」の中核こそが、自己肯定感です。

世間では、“自己肯定感”は、「自分を好きになる」とか、「ポジティブになる」という意味にとらえられています。しかしこれは、“自己肯定感”そのものではなく、立ち直った先の結果の一つにすぎません。その結果を自己肯定感だと言われれば、お仕着せや、無理やりを感じてしまうでしょう。ryuchellさんが「好きではない」と言っているのは、この感覚によるものだと思います。本当は、立ち直るための機能なのですから、結果は、ポジティブでなくてもよいのです。自分を肯定できなくても、立ち上がれれば、それは自己肯定感です。>/p>

彼は、本当の意味の“自己肯定感”を伝えたいのだと思います。実際こう語っています。『自己肯定感という言葉の代わりに「自分を甘やかしてあげる」という言葉を使う。そして、子どもに対しては、いわゆる自己肯定感の根っこになる「無条件の愛」を伝えることをとても大事にしている』さらに、彼はこう続けます。『自己肯定感という表面上の言葉だけに振り回されて、無理に自分を好きになろうとしたり、つらい気持ちにならないで、落ちこんで自分を好きになれなくても大丈夫だよ、と伝えたいんです』(以上引用)

ryuchellさんのように、発言力や影響力のある方が、こうして一般の方たちにわかるように本質を説いてくださることは、とてもありがたいことです。多くの人に知ってもらえば、確実に世の中が良くなります。とりわけ、子育ての世界は、良い方向に向かいます。

いまの子育ては、大事な「本質」ほど、ねじ曲がって伝えられていることが多いように感じます。だからこそ専門家の一人として、改めて言います。“自己肯定感”は、やはり大事です。そのためには、無条件に愛された経験が大事です。年齢が小さければ小さいほど重要です。そして、大人になっても“自己肯定感”は育ちます。これについて、もう少しつっこんで語りたいところですが、さらに大量の誌面を要しますので、ここでは乱暴ですがひとことで言い切っておきます。

「とりあえず、もう一度立ち上がってみる」

ただ目の前の事実をシンプルに観察する。自分が嫌いでもイイ、ダメだと思ってもイイ!悩んでもイイ。葛藤してみてください。それは、心を立てなおそうとしていることにほかなりません。それが“自己肯定感”です。その結果、ポジティブになることもあるし、そうでないこともある。少なくとも、立ち直った数だけ、自己肯定感は高くなる。その分、生きやすくなる。子育てにおいても、人間成長においても、それが本質です。

一般社団法人日本アタッチメント育児協会
理事長 廣島 大三

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