教育を考えずには子育てできない時代

「子育ては、幼児教育の文脈なしには成立しない」という時代に来ました。一昔前は、教育を考えるのは小学校に上がってからで、幼児教育は、一部の熱心な母親のためのものでした。ある意味、子育てが、のんびりしていた時代とも言えます。

時代は移り、教育の低年齢化は進み、就学前の子どもを幼児教室に通わせたり、習い事をさせたりするのは、当たり前。もはや「子どもは、遊ぶのが仕事」という時代ではなくなっています。

幼児教育は、やり方を間違えると逆効果

一方で、乳児期、幼児期、児童期といった就学前の年齢の子どもにとって、教育というのは「諸刃の剣」の側面を持ちます。うまく教育を子育てに取り入れてあげれば、豊かな人格形成と能力形成を導くことが出来て、子どもの将来の可能性を格段に拡げてあげることが出来ます。

しかし、やり方を間違えると、子どもの自己肯定感を阻み、知的好奇心の芽を摘んでしまいます。そして、この時期の子どもの発達課題である「自主性」の育みを妨げてしまいます。その結果、幼児教育などしないで自由に遊ばせていた方が、子どもにとって良かった、ということが起きてきます。

発達課題は、ひとつしくじると、次へ行けずに歪んでいく

それだけでなく、「自主性」の発達課題をしくじると、小学校に入ってからの発達課題である「勤勉性」に移行できず、対立要素となる「劣等感」を植え付け落ちこぼれて行ってしまいます。これは、心理学者エリク・エリクソンのライフサイクル理論によるものです。しかも怖いのは、その結果は、10年、15年経たないと見えてこないことです。

多くの親たちは、こうした「諸刃の剣の側面」を知ることなく、「みんながやっているから」という理由で、あるいは、「子どもに少しでも良い教育を与えてあげたい」という思いで、子どもを教室に通わせます。しかし、こうした親の都合を押し付けた結果としての教育は、子どもの発達を歪める結果を引き起こしかねません。

親たちは、『本当に必要な幼児教育とは何か?』ということに真剣に向き合わなければならない時代

大切なのは、親の安心感や自己満足ではなく、子どもが、幼児教育の「良い側面」を享受できること。そのためには、環境が重要となります。環境とは、子どものために必要な体験ができる「あそび」のプログラムと、親や教育者が、その意味や役割を理解するための「知識と理論」の両方が備わっていることです。

そして、「あそび」を通して、必要な発達課題を経験すると同時に、10年・15年後に、その子の大きなアドバンテージとなる「能力の土台」を身に付けることです。

この「能力の土台」を左右するのは、3~6歳のプレスクール期に、身体面・精神面・認知思考面を併せて、どんな体験をしたかです。その体験は、記憶力による詰め込みではなく、繰り返しによる訓練でもなく、親に喜んでもらうために無理して取り組む強制でもなく、「楽しい遊び」としての体験でなければなりません。それこそが、『本当に必要な幼児教育』です。

では、『本当に必要な幼児教育』とは、具体的には、どのようなものなのでしょうか?

IQの高さや知識の量よりも、大事なものがある

具体的には、ひらがなや数字、英語といったお勉強を「遊び」として楽しめる「あそび」です。こうしたお勉強のような学力に関係する「認知スキル」は、小学校に上がってから始まるお勉強の準備であり、基礎学力となります。

また、最新の脳科学や児童心理学の研究では「非認知スキル」が注目されています。最近の長期にわたる実証研究によってわかってきたことは、幼児教育によって早期に高いIQ(高い認知スキル)を獲得しても、その後8歳前後になると、その差はほとんど見られなくなるということです。

将来にわたるアドバンテージをつくるのは性格、つまり「非認知スキル」

これに対して、幼児期に、高い「非認知スキル」を身に付けた子どもは、その後の学力の伸びだけでなく、大人になってからの収入や社会的成功、持ち家率、健康さらに、反社会的行為に及ぶ確立の低さ、において優位性が見られました。 こうした研究から、最近注目されているのがGRIT(やり抜く力)やセルフコントロール力(自制心)といった非認知スキル要素です。

「非認知スキル」を育てるカギは何?

非認知スキルを育てるのは、みなさんには馴染みの深い「アタッチメント」なのです。OECD教育スキル局の宮本氏はこんなことを言っています。

「教員や保護者、メンターと子どもたちの間の強いアタッチメント・コミュニケーションの強化が(非認知スキルを養うのに)有効であることがわかっているのです」

つまり、これからの幼児教育は、「認知スキル」に代表される、これまでのお勉強的な幼児教育だけでなく、アタッチメントと共に語られる「非認知スキル」を養うものである必要があるということです。幼児教育においてむしろ重要なのは、後者の方だったのです。

直感的には、気付いていた真実を、科学が証明してくれた

しかし、これはよく考えれば当たり前の事ではないでしょうか?子どもに、記憶に基づいた勉強や繰り返しに基づく訓練ばかりさせていてはいけない。愛情のやりとりや、感情のやりとりを伴ったアクティビティの方が、本来重要なのだと、直感的には気付いていたはずです。最新の研究は、そうした私たちの直感的な真理を、科学的に裏付けてくれたにすぎません。

そうした意味で言うと、手前味噌になってしまいますが、「プレスクール・あそび発達」は、就学前の子どもとその親に関わるすべての方にとって、これまで言葉には出来なかった「もっと違うやり方があるのではないか?」「このやり方で、果たして良いのか?」という漠然とした疑問や不安に答え、あるべき一つの形を提示するものになっています。

養育者として、保育者として、教育者としてできること

例えば、保育士さんが学べば、子どもにとってのメンターとして、保育現場で直接関わり、 本当に必要な幼児教育を提供できるだけでなく、お母さんたちにも、それを伝え、保護者として出来る幼児教育を提案し導くことができます。それこそが、保育士として最強のスキルアップに他なりません。同じことは、幼児教室や各種習い事の先生や、小児科の看護師さん、児童館の職員さん、子育て支援に従事される方などにも言えることです。

これまでの経験やスキル、知識を一旦整理して、それらをアップデートして、再構築する機会として、この講座は最適です。 今日は、養育者として、保育者として、教育者として、「本当に必要な幼児教育」とその「環境づくり」について、考えてみました。

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