【理事長コラムvol.4】大変さを増す現代の子育てで大切なのは、毎日の『心のメンテナンス』

廣島理事長

「子育ては大変だ!」というのは、今さら声高に叫ぶことではありません。しかし昨今は、その「大変さ」が、極まっているように思えます。特に、子育ての大半を担う母親の大変さは、(是非論は別として)まさに「危機的」レベル。

さらに、首都圏や都市部を中心に、共働き夫婦は増えています。産休・育休が終わって、フルタイムで職場復帰するワーキング・ママも珍しくなくなっており、子育ての大変さは、増す一方です。

こうした話になると、子育てママの働き方や男性の育児参加、子育てサービスの拡充など、おなじみのテーマが浮かんできそうです。つまりは、政府が制度を整備するとか、企業が文化を改めるといった話。しかし今回は、そうした社会的な方向性ではなく、「大変なお母さん」という個人に目を向けてみたいのです。

ところで私は、受講生と直に接して、それぞれの現場で起きていることを知るために、年に1回だけ、育児セラピスト1級(後期課程)講座に登壇することにしています。ちょうど先日、登壇してきました。その中の一人の受講生が、まさに大手企業に勤めて、フルタイムで復帰して、2歳半の子どもの子育てをしているバリバリのワーキング・ママでした。今回は、この方をモデルに話を進めていきたいと思います。

彼女の仕事は、営業職ということもあり、プレッシャーも、責任も男性社員と変わりません。そのストレスと疲労は、むしろ男性社員以上かもしれません。その上に、帰宅すれば、仕事でクタクタの体で、母として子育てや家事をこなさなければなりません。幸い、保育園の送り迎えなど含め、夫は協力的です。とは言え、夫婦共に地方出身なので、親(祖父母)には頼れません。これは、まさにギリギリの生活と言って良いでしょう。

さて、このワーキング・ママが「大変さ」を少しでも解消するために、一体何が出来るでしょうか?

それを考える前に、先ほどから「大変さ」と表現しているものについて考えてみたいと思います。もちろん、ここで言う「大変さ」は、「体の大変さ」と「心の大変さ」。

余程の身体的な重労働でもない限り、ピークには達しない上、毎日の睡眠と休息によって、回復できるのが「体の疲労」。一方、蓄積しやすく、リリースしにくい、睡眠や休息によって回復するものでもないのが「心の疲労」。

例えば、仕事でクタクタになって帰ってきた時、何もする気力がなく、バタンと横になってしまいたいという時。あれは、体ではなく、心が疲れきっていることによるものだということに、お気づきでしょうか。体は動くけど、心が動くことを拒否しているのです。仕事や社内の人間関係、通勤や移動の疲れ、プレゼンや企画を考える・・・こうした、心のストレスや疲れが、活動を拒否するのです。仕事のストレスだけでなく、子育てのストレスも同様のことを引き起こします。

つまり、仕事や子育てで疲れ果ててしまうのは、「体」ではなく、「心」の方なのです。だから、「心」に対応してあげないと、疲労は蓄積され続け、やがて「何もやる気がしない」「眠れない」「食欲がない」というように身体的な活動にも影響を及ぼしてきます。この延長線上にある心の病こそが、皆さんご存知の「うつ病」です。

疲れたお母さん

では、「心の大変さ」「心の疲労」に対応するには、どうすればよいのでしょうか。これが実に難しい命題なのです。われわれ現代人は、毎日自分の心をだまして生活しています。心理学用語でこれを「防衛」と言います。われわれは、毎日自分に「大丈夫!」「問題ない」と言い聞かせ、自らの心を防衛するのです。

つまり我々は、怒り、悲しみ、寂しさ、そうした感情に蓋をして、何もなかったように振る舞って、防衛して生きています。防衛された感情は、蓄積します。記憶では忘れていても、ずっとそこにあり続け、毎日溜まり続けます。溜まり続けるのですから、いつかは限界が訪れ、洪水のように溢れ出します。「心の限界」です。攻撃的になる人もいれば、自虐的になる人もいます、逃避する人もいます。

感情の蓄積

こうした感情の蓄積による「心の限界」に対処するには、防衛をはずして、一つ一つの感情に目を向け、対峙することしかありません。その具体的な方法として、とてもおススメなのが、近年、心理療法としても注目されているマインドフルネス。しかし、私の言うマインドフルネスは、メソッドとしてのそれではなく、もっと本質的な「心の機能」という意味合いです。

ところで、これは、何ら難しいものではありません。むしろ、誰でも出来る地味で当たり前の営みです。ここで簡単にご紹介するなら、やはり「呼吸法」でしょう。呼吸というのは、人間の臓器を、自分の意志で動かせる唯一の方法です。長く細く深い呼吸は、脳の扁桃体の活動を沈め、心を落ち着かせる効果があります。

呼吸を見つめるうちに、やがて自分を第三者的に観るような感覚になります。そうすると、怒り、悲しみ、寂しさといった防衛によって蓋をされた感情に向き合う準備が出来ます。怒る私、悲しい私、寂しい私を、第三者の目で見るような感じです。

マインドフルネス

そうすると「感情の意味や背景」が客観的に観えてきます。なんかモヤモヤとか、イライラといった得体のしれない嫌な気持ちの正体や原因が見えてくる感覚です。それは、普段は、(無意識に)がんばって見ないようにしているモノたちです。そこに、正面からアクセスできるのです。人間の心というのは、正体がわかってしまえば、自己解決をはじめます。結果として、心がスッキリした状態になります。この状態こそが「マインドフルネス」なのだと私は理解しています。

とまあ、この誌面で語るには、これくらいが限界ですが、何となく雰囲気がわかっていただければ、ここでは充分です。お伝えしたかったのは、「心の大変さ」をケアするというのは、実は、理屈ではなく、こうした「心の機能」による「心の作用」なのだということです。

この時代に、子育てをする親は、こうした「心の仕組み」を知った上で、毎日の生活の中で、「心のメンテナンス」をしていく事が必要不可欠です。子育てを成立させるカギとも言えます。その具体的な方法論やメソッドまで触れたいところですが、誌面の限界がありますので、今回は「心のメンテナンス」を考える上で、本質的に重要なことに焦点を当てさせていただきました。

ヨガ、瞑想、マインドフルネス、自律訓練法など、様々な心のメソッドがありますが、今回お伝えした「心の機能」による「心の作用」という「心の仕組み」を知った上で、メソッドや方法論に取り組むことが、とても重要です。

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