【理事長コラムvol.2】アタッチメントは、量より質

アタッチメント形成において「一緒に過ごした時間の長さよりも、その質が問われます」

三歳児神話をアタッチメントで解釈すると・・・

これを私は確信を持ってお伝えします。昔は、三歳児神話といって、「子どもが3歳になるまでは母親が子育てに専念すべきであり、そうしないと成長に悪影響を及ぼす」という考え方がありました。この考え方は、3歳までの育児において、母親に過大な責任を押し付けただけでなく、父親(をはじめ母親以外の人)を育児から遠ざける結果をもたらしました。この考え方は今や過去の遺物という感があります。実際、1998年、「厚生白書」において「三歳児神話には、少なくとも合理的な根拠は認められない。」と記されています。母親が子育てに専念することは、間違っていませんが、それが唯一の解であるわけではないはずです。

John Bowlby 1907-1990

アタッチメントの祖であるボウルビーは、母親から引き離されて、乳児院などに預けられた子どもの発達不良に関して論文を「母性的養育の剥奪」として発表しています。しかしこれは、「母親」の重要性を説いているのではありません。「養育」の重要性を説いているのです。しかも、あえて「母性的養育」と表現しています。つまり、母親だけでなく、おばあちゃんや保育士、あるいは父親やおじいちゃんだって良いのです。大事なのは、いつも決まった養育者が「母性的な関わり」をすることです。

専業子育て?それとも、共働き子育て?

さらに、注目すべきなのは「養育は、いつもその質が問われる」という事実です。「ただお世話をする」ことと、「愛情を持って接する」ことは、同じ養育でも、明らかにその質が違うということです。極端な話をすれば、24時間365日一緒に居られるけど、お母さんが疲れていてお世話することで精一杯な状況と、共働きで一緒に居られる時間は限られているけど、一緒に居る時間は、濃密に愛情を持って接し、お世話してくれる状況ならば、後者の方が、余程アタッチメント形成は豊かに行われます。つまり、量ではなく質なのです。ただし、後者の場合でも、お母さんがいない間も、誰かが母性的養育を提供してくれている必要があります。

重要なのは、愛着をもって関わってくれる養育者

ここで、養育が誰によって行われるかは、重要なわけですが、それが母親でなければならないと言うことはありません。アタッチメント理論の中で重要視されているのは、「毎日関わってくれている決まった養育者」であり、子どもが「安全基地と思える養育者」です。それは、母親だけでなく、おばあちゃんもなり得るし、保育士の先生だって、お父さんだって、おじいちゃんでさえ、そうなり得るわけです。

こうした母親以外の人から、母性的養育を受けていれば、0~3歳であっても、子どもは充分な愛情を感じ、健全に育つことができます。母親との時間が限られていたとしても、その時間の質が良ければ 、時間の量に関係なく、母親とのアタッチメントを充分豊かに築くことができるのです。

子育てに理想を持ち出すという幻想

一方で、「母親が、24時間365日愛情を持って子どもと接すれば、それが最高なんじゃないか」という意見もあると思います。理論上は、その通りだと思います。冒頭の「三歳児神話」は、まさにこの考えに基づいています。「少なくとも3歳までは、そうすべきである」と言うわけです。しかし、それは理想論であり、机上の空論であると、私は思います。

お母さんだって、人間です。ゆったりできる時間や、気分転換なしで、24時間365日、子どもに対して愛情豊かでいられるわけはありません。子どもの発達においてとても重要な0~3歳だからこそ、お母さんだけが、養育の責任を一手に引き受けるのではなく、お母さんが、最高のアタッチメントを子どもに与えてあげられる環境設定が重要なのではないでしょうか。それは、24時間365日ずっと子どもと過ごすことではないはずです。専業のお母さんだって、子育ての息抜きは、必要不可欠です。その間の養育は、お母さん以外の誰かに担ってもらう必要があるのです。

「ワンオペ育児」という現代の育児問題

最近、ワンオペ育児という言葉を耳にします。夫や実家からの支援が得られず、お母さんが、たった一人で家事も育児も担っている状況として、問題視されているそうです。これって、今に始まったことではありません。ちょうど、三歳児神話が全盛だった頃の専業主婦の子育てというのは、まさにこのワンオペ育児そのものです。核家族で、郊外に住み、夫は都心へ仕事に、毎日朝早く出かけて、夜遅く帰って来る。子育ては、専業主婦である妻の役割。そんな中で、当時のお母さんも、たった一人で育児も家事も担っていました。

冒頭で、三歳児神話が、父親(をはじめ母親以外の人)を育児から遠ざける結果をもたらしたことに触れましたが、このことは、1970~90年代の子育てを見れば明らかです。三歳児神話は、母は子育て、父は仕事という性別役割分担を、パワフルに正当化したのです。それは、今で言うワンオペ育児を助長するのに一役買っていたはずです。いま「ワンオペ育児」と呼んで問題視していますが、実は、この時代から、何も変わっていないだけのことなのです。

お母さん、ワンオペ育児を引き寄せないで!

三歳児神話が否定されている現在でも、お母さんたちは言います。専業主婦のお母さんは、「3歳までは、私が自分の手で育てたい。だから仕事をやめました。」また、共働きのお母さんは、「仕事をしていて、1歳から保育園に預けざるを得ないのが、子どもに申し訳ない。」つまり、心のどこかに、三歳児神話の名残が埋まっているのです。しかし、この考え方は、ワンオペ育児に陥るきっかけと流れを引き寄せてしまうことを知ってほしいと思います。子育ての責任を、お母さんが一手に引き受けることは、夫を育児から遠ざけます。「母親でなくては」「(父親である)自分には、出来ることはない」という考えは、やがて「子育ては妻の仕事」「自分はやらなくてもいい」という考えにつながります。そして、お母さんは、子育てに重い責任を感じながら、たった一人で、夫からの援助を受けることもなく、大変な思いで育児をすることになるのです。

夫が育児に積極参加するようになるためには

ところで、0~3歳というのは、夫にとっては、子どもの世話をすることで、父親としての自覚と自信を醸成する時期です。三歳児神話は、そのような大事な時期に、父親を子育てから遠ざけてしまったわけです。0歳の頃に育児に積極的に関わったお父さんは、その後も育児参加に積極的です。妻にとっても、夫からの支援が得られ、夫婦二人で育児をする文化が生まれます。

つまり、生まれた時から、夫に赤ちゃんの世話をどんどん任せることは、夫の育児参加を加速させるのです。これは、「エングロスメント」という研究によって実証されています。

お母さんにたちに伝えたい思い

そのためには、お母さんは、このことを知っておく必要があります。アタッチメントは、量より質。質の高い養育者になり得るのは、母親だけではありません。父親や保育士、おばあちゃんやおじいちゃんなど、周りにたくさんいるのです。

専業主婦のお母さんは、子どもから離れて、一人で過ごす時間を作ることが、質の良いアタッチメントを育む秘訣です。そのためには、0歳から夫を育児に巻き込んで、お父さんの休日に、子どもを世話してもらって、一人の時間を楽しんでください。

共働きのお母さんは、子どもを保育園に預けることに、罪悪感を感じないで。お母さんと離れた後は、保育士さんが第二のお母さんとして、ちゃんと養育してくれています。子どもと一緒に居られる時間に、精一杯のアタッチメントを与えてあげれば、子どもは充分に満足なのです。

アタッチメントは、量より、質なのです。

一般社団法人 日本アタッチメント育児協会
代表理事 廣島大三

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