第3回育児セラピスト全国大会シンポジウムを振り返って(1)井桁容子先生の講演

2012年12月9日に、毎年恒例の育児セラピスト全国大会を執り行いました。今年も、淑徳短期大学様のご後援をいいただきました。特に淑徳短期大学様には、大講堂や講義室などの会場をご提供いただいたばかりでなく、準備段階から多大なご協力をいただき、大変お世話になりましたので、この場を借りてお礼を申し上げます。

 

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第3回を迎える今回の育児セラピスト全国大会は、

小さな一歩が生みだす奇跡『あなたの一歩をあの子のために』

をテーマに掲げ、NHK「すくすく子育て」でお馴染みの井桁容子先生の講演で幕開けをしました。

井桁先生は、東京家政大学のナースリールームにおいて、0~3歳を対象とした「理想の保育」を実践されており、その現場からの様々な実例を交えて、保育のあり方、育児のあり方について、深い示唆をいただきました。

育児の専門家として、地域の子育てを盛り立て、支援していく私たち育児セラピストにとって、井桁先生のお話から学ばせていただいたことは、山ほどありました。

特に、大人あるいは保育者が、子どもの行動を如何に肯定的に観てあげられるか、その重要性を改めて考えさせられました。

 

井桁先生講演.jpgのサムネイル画像実例で、ナースリールームのある子どもが、トイレットロールを転がして、遊んでいる光景の写真が出ました。そして、先生は、「この子どもの行動を、あなたはどう解釈しますか?」と問いました。

これを、学びのプロセスと解釈出来るかどうかが、大人に問われています。子どもは、トイレットロールを散らかすために、このようなことをしたわけではないことは、冷静に考えれば誰にもわかります。

トイレットロールが転がることによって、筆で描いたように床一面にキレイな模様が出来上がる光景を「発見」したわけです。たった一巻のトイレットロールで、このような世界を創ることができる。この発見は、科学のめばえでもあり、想像力の広がりでもあるわけです。

子どもの行動をそのように「善く」解釈して、待ってあげて、その行動を認めてあげることによって、その子が持つ探究心や優しさ、几帳面さ、創造性に気付き、伸ばしてあげることが出来ます。それによって、子どもと保育士(あるいは親)のアタッチメント関係は、一層強固になります。

しかしながら、多くの保育現場では、こうした行動を反射的に、いたずらや問題行動と判断しまいます。そのように「悪く」解釈してしまって、叱ってしまえば、子どもが行った創造的な営みは「悪い行為」として子どもの心に残ってしまいます。本当は、「スゴイよ!せんせい、みてみて!」と誇らしげな気持ちを持っていたのに、それが否定されて混乱するのです。そんなことを繰り返すうちに、子どもは、混乱を避けるために、心を閉ざすことで適応するようになります。そこにあるのは、不安定なアタッチメント関係です。

「善く観」てあげることと、「悪く観」てしまうこと、出てくる結果は天と地ほどの差があります。それは、すべて大人にかかっている。そのことを、井桁先生は、具体的な実例をもって教えてくれました。

 

井桁先生講演2-480.jpgまた先生から、もう一つ印象的な問いかけがありました。

「ごめんね」⇒「いいよ」
「かして」⇒「いいよ」
「仲間にいれて」⇒「いいよ」

セットで使っていませんか?

これは、目からうろこでした。言われてみて「ハッ」としました。

確かに、セットで使ってしまっていませんか。でも、よく考えてみてください。子どもなら「やだよ」と言いたいときだってありますよね。「ごめんね」だけでは、気がおさまらない時、集中して遊んでいる最中だから、今は「かしたくない」時、二人の世界で遊んでいて「仲間をいれたくない」時、あるはずですよね。

いつでも「いいよ」じゃなくていいんだよ。自分の「やだ」の気持ちをわかってもらって、それを認めてもらって、そのことに満足して、はじめて心のスペースが出来て「いいよ」が出てくるものですよね。このプロセスこそが、相手を思いやり、相手に共感するに至るプロセスです。まずは、自分が認めてもらわなければ、相手のことを思うことは出来ないのが人間というものです。

「セットで使っていませんか?」本当に考えさせられる問いかけでした。


そして最後に先生は、1~3歳までに「いたずら」や「やだ」と言った数が多い子ほど、土台が安定した倒れにくい子どもに育つのです!としめくくられました。

 

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(井桁先生のスライドより)

この考え方は、非常に深く本質的なものだと感じます。「いたずら」や「やだ」を多く経験するためには、それを待ち、認め、理解してくれる大人の存在が必要不可欠です。そうでないと、「多く経験する」ことは出来ません。そうして育った子どもは、自己肯定感が強く、思いやりがあって、やさしく、想像力豊かな安定した子になります。

「いたずら」や「やだ」を否定される環境では、すぐに子どもは、いたずらもしなくなり、「いいよ」といつも言うようになります。それは、自己防衛本能によって、あきらめているのです。その結果、「いたずら」や「やだ」を多く経験することは出来ません。そして大人は、こういう子どもを「イイ子」と呼びます。本当は、土台が小さくて倒れそうな子なのに、イイ子にされてしまいます。

イイ子でなんか、いなくたっていいのです。

 先生の講演の後に、交流会で振り返りのワークショップを行いました。多くの保育関係の参加者が、自らの保育を内省し、「明日から少しずつでも理想の保育者を目指していきたい。」と決意を新たにしていました。

それだけでなく、そのために出来る具体的な行動として、

安易に叱ったり、子どもの行動を止めてしまったりしないで、まずは待って「善く観てあげる」ようにする

というように具体的な行動目標にまで落とし込んでくれている方が、何人も見られました。

本当に素晴らしい講演でした。井桁容子先生、ありがとうございました。

この後のプログラムの振り返りも、順次掲載していきます。

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