Touch Research Institute 訪問記

アメリカ・最新マッサージ情報

NICUに入院している赤ちゃんへのマッサージ
入院中に治療や検査以外の触れ合いがない

NICUに入院する赤ちゃんは、基本的に低出生体重児ですので、保育器に入っています。アメリカでは、先述の通り、看護師がベビーマッサージをすることはありません。また、母親にそれを指導することもありません。基本的に、看護師は看護を行います。また、NICUに母親が来て、赤ちゃんと触れ合うということも、あまり行われません。そうした対応は、看護師にとっては、業務外の仕事だからです。

そのため、NICUの赤ちゃんは入院中、治療や検査以外の触れ合いはありません。そうなると、赤ちゃんがアタッチメントを得る機会は、非常に少なくなってしまいます。そうした状況に対応するために、マイアミ大学病院のNICUでは、Touch Research Institute のマッサージセラピストが出向いて、赤ちゃんに低出生体重児(未熟児)向けのベビーマッサージを施しています。

本来は、日本のように、お母さんにマッサージを指導して、お母さんが直接赤ちゃんにマッサージしてあげられるのが一番良いのですが、アメリカでは、お母さんがベビーマッサージの重要性を認識していないため、なかなか難しいようです。

赤ちゃんに温かい触れ合いを与える

Touch Research Institute のベビーマッサージも、やはり「心の触れ合い」つまりアタッチメントを重視しています。そのため、まずは赤ちゃんに声掛けをして、そっと手を当てて、静かに赤ちゃんの呼吸を感じ、赤ちゃんの心とつながることから始めます。

こうした心を大切にする方針は、所長のティファニーさんによるもので、彼女のお子さんも、低体重で生まれたことも、彼女が赤ちゃんと触れ合うことを大切にする背景の一つとなっているのでしょう。こうした、表には表れない「心の対応」は、赤ちゃんのアタッチメント形成を豊かに促します。そして、それによって、情緒の安定と発達の促進が期待できます。

特に、生後間もないこの時期の赤ちゃんのアタッチメント形成は、母親ではなく、他の養育者やマッサージセラピストであっても、充分な効果が期待できます。

低出生体重児へのベビーマッサージ(Premature Baby Massage)

今回私と桑山がCertification を取得してきたのは、「Premature Baby Massage(低出生体重児へのベビーマッサージ)」と「Pregnancy Massage(妊婦へのマッサージ)」の二つです。ここでは、「Premature Baby Massage(低出生体重児へのベビーマッサージ)」を簡単にご紹介したいと思います。詳しくは、アタッチメント・ベビーマッサージインストラクター専用サイトをご参照ください。

まず、一般的な話として、ベビーマッサージというと、生後3カ月以降の赤ちゃんが対象になり、6か月を過ぎてから始められる方が多いのではないかと思います。これは、お母さんが、赤ちゃんを連れて外に出るのが、この時期であることが大きな理由です。3か月を過ぎた頃から、子育ても落ち着いてきて、そろそろ外に出かけて、他のママたちと交流したいと思い始めます。そうして地域のベビーマッサージ教室の話を聞いて初ベビーマッサージとなる事が多いわけです。

当協会のアタッチメント・ベビーマッサージも、そうした状況を前提に手技が構成されています。逆に、生後間もない新生児期の赤ちゃんの場合、優しく手を添えて、全身をなでるアファメーション(ベビーマッサージの最初に行う準備のようなもの)のみを推奨しています。

今回学んできた「Premature Baby Massage(低出生体重児へのベビーマッサージ)」は、新生児の中でも、小さく生まれて、保育器に入っている赤ちゃんを前提としたベビーマッサージです。こうした特殊な状況のベビーマッサージ手法を、Touch Research Institute のような専門機関から学べるのは、非常に貴重なことですし、きちんとした実践と臨床に基づいた手法ですので、安心して取り組めます。

さて、実際に学んでみて得られた大きな発見についてお伝えしたいと思います。今回学んだのは、低出生体重児向けのベビーマッサージですが、これは、低出生体重児だけではなく、すべての新生児のアタッチメント形成にとって、非常によい手法であるとことが確認できました。私は、特殊な状況は、決して縁の薄い特別なことではなく、むしろ多くの人に深くかかわる事だと考えています。特殊な状況の少し手前というのは、よくある日常の問題シーンであることが多いからです。そして、特殊な事例は、その対応策を示してくれていることが多いと考えています。つまり、低出生体重児のためのベビーマッサージは、そのまますべての新生児に応用できるということです。

今回学んだ「Premature Baby Massage(低出生体重児へのベビーマッサージ)」は、赤ちゃんにとって非常に刺激の少ないアプローチで、豊かなアタッチメント形成が出来、保育器に入った低出生体重児にもリスクのないベビーマッサージ手法でした。

たとえば、最初に、手のひらの温度が冷たすぎないように、まずは手を温めるところから始めます。そして、最初のアファメーションでは、赤ちゃんと呼吸を合わせて、赤ちゃんがベビーマッサージをされる準備が充分に出来たことを確認します。マッサージ手法も、通常のベビーマッサージとは違い、各部にそっと手を当てるように進めていきます。これも、赤ちゃんにとって刺激が少なくなるようにする配慮です。

一方で、心の交流にも十分な配慮がされており、赤ちゃんの顔を見て、声を掛けながら、その声のかけ方、目の合わせ方、表情にいたるまで、赤ちゃんと心が通じ合うことに主眼を置いて、具体的な指導がありました。

低出生体重児へのベビーマッサージは、6か月の赤ちゃんのベビーマッサージよりも注意する点が多いですし、よりデリケートに行われる必要があります。でも、アタッチメント形成においては、それだけの価値があることは、間違いありません。そして、このことは、健常に生まれた新生児にも、そのまま当てはまります。

よく、「ベビーマッサージはいつごろから始められるのですか? 」というご相談を受けます。私は、「生まれてすぐから始められますよ」と答えるのですが、実際には新生児に対して、どこをどう注意して行えばよいのかを知っていないと、なかなか始められないでしょう。今回の「Premature Baby Massage(低出生体重児へのベビーマッサージ)」は、その意味で、本当に生まれたばかりの赤ちゃんへのベビーマッサージ手法として、具体的にお伝えすることが出来ます。 実際の詳しい手法については、「Pregnancy Massage(妊婦へのマッサージ)」と共に、アタッチメント・ベビーマッサージインストラクター専用サイト「アタッチメントライフ」にてフィードバックすると共に、今後スキルアップ講座として、体系的に学んでいただけるようにいたしますので、お楽しみに!

博士との記念撮影

うつ傾向にある妊婦へのマッサージ

「Pregnancy Massage(妊婦へのマッサージ)」も、特殊な事例に対する対処という観点で「うつ傾向にある妊婦さん」の心的安定を目指したマッサージですが、当然、健常な妊婦さんにとっても、充分な心的安定効果が期待できます。また、妊婦さん向けに考えられたマッサージですので、おなかが張ってしまうとか、妊娠の状況を悪くするようなことのない手技で構成されています。

プレグナンシーマッサージ(妊婦へのマッサージ)

今回は、「Pregnancy Massage(妊婦へのマッサージ)」も学んできました。マタニティのためのヨガとしてのアタッチメント・ヨガと共に、妊婦さん向けのアタッチメントの営みとして有効に活用いただけると思います。

「Pregnancy Massage(妊婦へのマッサージ)」も「Premature Baby Massage(低出生体重児へのベビーマッサージ)」と同様に「心の作用」に主眼を置いています。マッサージはあくまでリラックスしてもらうことと、受容感を感じてもらうことが目的となっており、カウンセリングの一環のような位置づけでした。

リラックスして、大切にされる中で、これからの出産に対する不安が和らぎます。研修の日も、実際に妊婦さんが施術に来ていました。最初は、妊娠による体系の変化や出産の不安から、妊娠・出産を肯定的に捉えられず、うつ傾向を抱えて訪れたそうです。この日は、全10回の最終回で、すっかり出産に対して前向きになっており、生まれてくる子どもに会えるのを楽しみにしていました。

私も、実際にこのマッサージを受けてきたのですが、マッサージそのものの効果よりも、いたわられている事への受容感や、そこでなされる会話が、マッサージの気持ちよさと相まって、独特のリラックスを生んでいたのが印象的でした。体へのアプローチが、心に効いている感じでした。妊婦さんにとって大切なのは、こうした「心の作用」なのだろうと、身をもって感じました。

お腹へはマッサージしない手技

では、実際の手技についても、ご紹介します。と言っても、やり方ではなく、ここでお伝えしたいのは、この「Pregnancy Massage(妊婦へのマッサージ)」の特徴です。妊婦マッサージというと、妊娠線のケアなど、お腹周りのアプローチをするのかとお思いになるかもしれません。

しかし、Touch Research Instituteの「Pregnancy Massage(妊婦へのマッサージ)」は、お腹へのマッサージは、一切行いません。これは、いろんな状態の妊婦さんがいる中で、お腹へのアプローチは、お腹の張りを促進してしまうなどのリスクとなるケースがあるからです。また、お腹を触られるのを嫌がる方が多いからだそうです。あくまで、目的は「心の作用」ですので、リスクは取りません。

行なうのは、手、腕、脚、足、背中、顔です。妊婦さんのおなかに負担がかからないように、基本的に横向きの状態で行います。マッサージはオイルをたっぷり使って、優しく行います。オイルは、手が対象に吸い付くので、理想的なマッサージを促してくれます。顔のマッサージは、新たにオイルを足すことはせず、手に残ったオイルで行います。詳しい手技は、別の形でフィードバックいたしますが、ここでは、マッサージに対する考え方をご紹介しました。

Pregnancy Massage

この「Pregnancy Massage(妊婦へのマッサージ)」を、育児セラピスト流に提案するなら、夫が妊婦の妻にしてあげるマッサージとして、これからパパになる男性に指導したいですね。 妻の受容感が増し、出産への肯定的イメージを作れるだけでなく、夫への信頼感と、強い夫婦の絆、そして、これから始まる育児へのイニシエーションになると思います。また、夫にも良いことがたくさんあります。これからパパになる自覚を醸成することができ、生まれてくる赤ちゃんへのアタッチメントの準備が出来ます。男性の場合、赤ちゃんが生まれても、なかなか父親の実感を得られないのですが、こうした準備段階を経験した男性は、スムーズに父親の実感を得ます。

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