第13回育児セラピスト全国大会in2022 優秀実践者発表 ダイバーシティ部門・佐伯侑大さん

佐伯侑大さん

父として、教育者として、育児セラピストとして、発信し続ける

佐伯さんは、もともと中学校の社会科教諭で、奥さまと入れ替わりで1年間の育児休暇を取得して、ワンオペ育児を経験しています。現在は、子育てをふくめたライフスタイルを見直して、小学校に転任されています。 また、竹安さんと同じ「育児セラピストMen‘sゴレンジャー」のブルーとして、育児休暇でワンオペ育児を経験したパパとして、教師として、さまざまな視点からブログを執筆しています。

仕事人間の社会科教師が、ワンオペ育児を決意

妻も小学校教諭なのですが、長女が生まれるので、産休と育休を取っていました。そんな妻は、もともと早く仕事復帰するために、私の育休取得を奨めていました。その当時、私は、仕事人間で、夜遅くまで学校に残るような教師でした。 そんな折、社会の授業で “ダイバーシティ”を教えたときのある生徒からの質問が転機となりました。 「先生のうちは、ダイバーシティできてるんですか?」 生徒からのこの言葉で、教師魂に火が付き一念発起。1年間の育児休暇を決め、妻に代わってワンオペ育児を開始しました。長女が7か月の時のことです。

妻に負けたくない!という思いから、育児セラピストを受講

育休を取って、ワンオペ育児がはじまって間もなく、私の中にある思いが芽生えます。 『妻への対抗心』 子どもが大きくなったとき、妻から「わたしのおかげよ!」と言われたくない。妻に負けたくない、なにか妻に対抗できる武器を手に入れたい、と思うようになりました。 妻は、みずからの育児に、独自のこだわりと方針を持っていました。私は、それに対抗するために、「育児」というものを、より広く、多角的な視点から学ぼうと考えました。男性である自分は、理論やメカニズムがわかると、理解がより深まります。そして辿りついた答えが「育児セラピスト」の受講でした。 受講してみると、妻とは違う、父親独自の理解を得ることが出来たと実感しました。 “父親ならではの関わり” や、“子育てにおける父親の役割” についても学びました。さらに、対人援助法やカウンセリングといった、妻が知らない分野についても学ぶことが出来ました。 武器を得た私は、育児をとおして「父親としてのマインドセット」を確立することができました。娘は極度な人見知り、場所見知りです。また分離不安も人一倍強い子でした。当初は、「この子は、いわゆる問題児なんじゃないか?」と思ったこともあります。しかし、講座で学んだあとは、これが「成長の証」なのだと思えるようになり、明確にそれを説明できるようにもなりました。 また、講座では、アロマザリング(母親以外の人による育児への関わり)の重要性や、社会性の育ちにおける父親の関わりの重要性を学びました。母親の代わりをしようとすると、それがやりきれなくて落ち込みます。しかし、父親の関わりも、子どもには重要であることを知ると、より自信を持って育児ができるようになりました。 受講してしばらくしたころ、私の中に、男として、夫として、父親としての自信のようなものが芽生えたのを感じました。同時に、妻への気持ちは、「対抗心」から「尊敬」に代わってゆきました。

子育ては、対抗戦じゃない、お互いの尊敬によって成立するものだ

講座でアタッチメント理論や発達心理学を学んで、ワンオペ育児を経験した今だからわかることがあります。それは・・・ 妻の日々の育児のすごさ これをあらためて実感するばかりです。「いろいろこだわってやっているな~」と私が漠然と思っていたことは、すべて背景と裏付けに基づいていました。今の私なら、それがすべて説明できます。 長女は2歳になってイヤイヤ期の真っ最中です。妻は、そんな娘に対して、「語りかけ」を大切にします。イヤイヤ期は、自主性と自律性の芽生えです。だから、「なにがイヤなのか」「どうしたいのか」をちゃんとコミュニケーションします。服も、娘の身長に合わせてならべて、自分で選ばせています。次女には、布おむつを実践しています。心地悪さを感じることで、おしっこやうんこを知らせてくれる。そのうち、こちらも、おしっこやうんこのタイミングが読み取れるようになる。最近の高機能紙オムツでは、こうはいきません。こうした一つ一つには、裏付けと意味があり、そこには、母としての思いが詰まっていることがわかるようになりました。だから、妻のことは尊敬なんです。自分も妻とは違う形で、「育児セラピスト」という知識を得て、「自信」ができたからこそ、そう言えるようになったのだとおもっています。妻も私のことを尊敬してくれているのだと思います。

アタッチメントは、教師としての私に“新たなスタンス” を与えてくれた

教師としての私を振り返ってみようと思います。 私は“教師として重要な職能”は、「子ども理解力」だと考えています。授業するにしても、部活動にしても、学校生活でも、「その子がどんな子なのか」を、教師が把握し、理解し、それに合わせて対応する能力が、教師には欠かせません。とくに、学校生活では、「どんなことに困っているのか(困り感)」の把握が重要です。子どもの問題行動に対して、子どもの「困り感」を観察することで、対応してきました。 アタッチメントを学んだことで、ここに「家庭(親)」という視点が加わりました。それによって、「子ども理解力」に厚みが増しました。問題行動のなかには、愛着不足による二次的な「困り感」が存在します。愛着不足による問題行動は、子どもに対するアプローチだけでは解決しません。家庭のなかに困り感が存在する場合、子どもと親を含めた「家庭」に働きかける必要があります。この“スタンス”は、これまで教師の中には存在しませんでした。その意味で、われわれ教師に、まったく新しい“スタンス”を提案してくれました。 教師の立場からでも、生徒のアタッチメントを築いてあげられる だからこそ、教師が生徒と根気強く関わることに意味がある アタッチメントは、そう言い切れるだけの根拠を与えてくれました。これは、すべての教師にとっての『希望』です。「教師の存在意義」を一段も二段も高めるほどのインパクトでした。本当に感謝しています。

ブログや座談会をはじめ、メディアで発信しつづける男性としての私

社会科の教師なので、社会の授業っぽい視点なのですが、「女性の社会進出」が進んだのは、女性が社会の議論に参加していったプロセスでもありました。同じように、これからは男性も育児の議論に参加する必要があると感じています。 こんな風に思うきっかけとなったのが、いまやっている「育児セラピストMen‘sゴレンジャーBlog」や「育児セラピスト座談会」でした。こういう場で、パパの本音や価値観をちゃんと表現して、それをブログで公開したり、座談会で発言したりすることを、今はとても大事に思ってやっています。

発信し続けていると、やがて“大きな場”から声がかかるようになる

こうして、発信を続けているうちに、発信の場に広がりが生まれてきました。 NHKすくすく子育て「ママ友・パパ友の悩み」、NHK未来スイッチ「パパの育休とりやすく」などテレビ出演の機会ももらいました。こうした“大きな場”での発信の機会というのは、じつは、ブログや座談会といった小さな積み重ねの中から生じていることを実感します。 最後に、育児セラピストとして、私は、これからも発信し続けていこうと思います。そのうえで、大事にしたいことを3つご紹介します。 1.リアルな声にしっかりと耳を傾ける もっとも身近なリアルな声である「妻の声」「わが子の声」からはじまり、生徒、同僚、地域・・・直接接する人たちの声をちゃんと聴く 2.自分もリアルな声を発信する 身近な声を聞いた自分が、感じたこと、思ったこと、考えたことを、ブログや座談会で発信し続ける 3.父として、教師として、実践する 発信した自分が、家庭の現場で、学校という仕事の現場で、実際にやってみる。 お聴きいただいて、ありがとうございました。

佐伯さんの発表を聴いて・・・廣島の講評

佐伯さん、ありがとうございました。冒頭の話は、おもしろいですね。奥さんへの対抗心から、育児セラピストを受講して、奥さんを「ギャフン」と言わせてやろうと思った。でも、知識が増えるほどに、自分が「ギャフン」という羽目になった。 実際に、奥さんはスゴイです!2歳のイヤイヤ期の娘さんに、服を選ばせる。そこで生まれる対話を大事にしている、というのはアタッチメントですね!ちゃんと、to do の先の成長を見越しています。それを佐伯さんが、理論として理解しているところが、ステキなご夫婦です。わたしの勝手な印象ですが、おそらく、実践している奥さんよりも、佐伯さんの方が、理論的な理解は深いのではと推測します。 そして、さすが社会の先生です。「女性の社会進出」にかけて「男性の家庭進出」に着眼したのは見事です。実際、男性育休だとか、パパの育児だとか言っていても、女性と同じ熱量で子どものこと、教育のこと、家庭のことを語れなければ、ただのデモンストレーションに過ぎません。 最後に、小学校教師の竹安さんと中学校教師の佐伯さんが、今回、アタッチメントをとおして同じところに着地したのは、非常に興味深かったです。「これまでは、教師として子どもだけを観てきた。しかし、アタッチメントを学んで、親の影響を知ったことで、家庭という新たな視点を得た。」というわけです。まったく違う時期に、違う講師の「育児セラピスト1級」を受けた二人の教師が、アタッチメント理論をとおして、同じ結論に達したということです。学校の先生が、「家庭=親」という新たなスタンスを得たのです。これが広まれば、教育を変えるインパクトです。「育児セラピスト1級」をとおして、そんなことが、起こったことが、本当にうれしいし、未来に希望が持てる事実だと思っています。 佐伯さん、ありがとうございました。

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