パネルディスカッション

 

【ファシリテーター】
廣島 大三 (社)日本アタッチメント育児協会 代表理事

今回は、「育児関連のマスメディアの現場」、「保育士、看護師養成の教育現場」、「保育および福祉における親子の現場」という、子育てにおける3つの違った立場でご活躍される方々をパネリストにお呼びして、意見を伺いました。

PANNELARZ

深刻さを増す親の育児知識不足

ここでは、「情報」と「知識」の違いを認識することの重要性が話し合われました。いまや育児情報はインターネット上に無料で溢れかえっています。これは一見便利で良いことのようで、実は子育てをする親にとっては、迷いや不安を生む原因となっています。情報というのは、その背景や根拠を知り、情報と情報のつながりを理解した時に初めて「知識」となる。そうした知識こそが子育てをする上で必要である、ということが話されました。

お母さんの不安に答え、寄り添うためには、やはりメディアだけでは不十分で、対面のサポートとして育児の専門家が身近にいること。重要なのは難しい学術理論ではなく「大丈夫だよ!」の一言。でも、それを言ってくれる相手は知識のある専門家であって欲しい。例えば、白衣を着た助産師や看護師の「大丈夫だよ!」は2倍の頼もしさがある。育児セラピストも、お母さんにそんな安心感を与えてあげられる存在でありたい、という見解がありました。

そして、雑誌などのメディアと、対面のケアをする育児支援者の役割は別であることを理解し、両者が相互に「つながり」、社会にその価値を広く伝え、実践していくことが大切なのではないでしょうか。例えば、メディアが「ベビーマッサージは心を育てる」などと取り上げることで、広くポジティブなイメージを与えられます。そのバトンを支援者は受け取り、現場でベビーマッサージを教えることを通じて、本質的に大事なことを伝え、お母さんの悩みや不安に個々に対応して安心させ、親教育を同時に行なう、といったことです。こういった連携で、育児知識不足の問題の解決の糸口は見えてきそうです。

この世から児童虐待をなくすためには

まずは、虐待の定義から入りました。ここでは、実際の暴力やネグレクトだけでなく、過度の暴言などを含めて子どもに恐怖を与えるような振る舞いを虐待と定義し、「このままだと虐待に至ってしまいかねない段階」と「虐待が行なわれてしまっている段階」に分けて、話し合われました。

前者の段階において、お母さんはとても追い詰められた状態にいます。その場合は、まず「認めてあげること」「寄り添ってあげること」。そのような中で、ひろせ幼稚園園長の野﨑先生は「お母さんのお母さん役を買って出ています!」と言い切っていました。母親の愛情でお母さんを包み込んであげることで、お母さんは追い詰められることがなくなり、虐待を回避する一つの道筋になっているのです。
虐待の種は常に「弱いものへ」向かいます。そして最後には子どもに回って本物の虐待に発展します。それは、母親が子どもに当たってしまうとき、それは、夫が妻に当たっている背景があるかもしれません。夫は、会社の上司から当たられていて、それを妻にぶつけているのかもしれません。会社の上司はそのまた上司から…。つまり、虐待は、社会生活の中で連鎖反応的に起こっている場合があるのです。それは、簡単に解決策が見出せるものではありません。社会の構造的な問題も含んでいるからです。そのような状況で、我々が確実にできることは、子どもに虐待が行なわれないようにすることです。そのためには、子どもに最も近いお母さんをケアすることではないでしょうか。

後者の段階において重要だったのは、「虐待をしている親は、自分が虐待をしているとは認識していない」ということでした。乳児院しらゆりベビーホームの施設長の島田先生は、「まずは、虐待をしている親に、自分がやっていることが虐待なのだとわからせることから始める必要がある。しつけだと信じて虐待行為に及んでしまう親は、自分のやっていることが虐待であるという認識は少ない」といいます。島田先生は、「あなたには母性がある。だから大丈夫よ」と認めたうえで、お母さんの行動を再認識させることを行なっているといいます。子どもの言う事を無視したり、過剰に反応したり、子どもが危険にさらされる可能性を黙認したり、そんなちょっとした態度の中に、虐待につながる種があることを知らせるきっかけがあるといいます。

虐待を受けた子どもが親になったとき、同じように子どもに虐待してしまう「虐待の連鎖」。立場の強い者から弱い者へと向かい、最後には子どもにしわ寄せが来る「虐待の連鎖反応」。どちらも、どこかで止めることができれば…。
そのためには、子どもの水際にいる親が、連鎖や連鎖反応を断ち切ることができるだけの知識を得ること、そして、そうした親を支える「母のような支援者」が重要ではないかと思います。その意味で、これからの「親教育」、そして「親支援」の意味において、育児セラピストの使命の大きさを痛切に感じました。

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