西鷹さんは30年以上にわたり、体操教室の講師をされています。
1歳〜小学生のお子さんやお母さんと接する中で、育児環境の変化や子どもの運動能力の低下を日々感じており、自分に何かできることはないかと模索していました。
現在では、育児セラピストとしてお母さんの育児相談に乗ったり、体操教室に来る前のお母さんとお子さんとの関わり方を伝えています。
長年たくさんの親子に関わってきたからこそ実感する育児環境の変化や、それに対して育児セラピストができることをお話しいただきました。
西鷹さんは、スポーツクラブで、ジュニアの体操選手の育成から、1歳児から80歳の方までの一般の方のための体操教室まで幅広く体操を教える先生をされて30年のベテランで、自らも体操選手として活躍されていた経歴の持ち主です。
そんなプロの体操の先生である西鷹さんが、ここ数年感じてきたのは、「親子の心を育てること」の大切さだったそうです。
というのも、最近の傾向として、子育てで何を大切にしたら良いか、子どもとどう接したらよいのか、といったことがわからなくて不安を抱いているお母さんが増えてきていると感じることが多くなってきていたそうです。同時に、子どもたちも、これまでには見られなかったようなビックリ事例がみられるようになったそうです。例えば、だっこやおんぶで、自力でお母さんにしがみつくことが出来ない子や、迫るボールに反応できず、手も足も動かず、声も出ない子など。こうした最近の母親の不安定さと子どもに起こる変化は、どうも無関係ではないと、直感的に感じていたそうです。
そうした中で、西鷹さんは、子どものこと、親のこと、育児のことを、イチからきちんと学んでみようと思い立ち、育児セラピスト・前期課程(2級)と、アタッチメント・ベビーマッサージを受講し、続けて、育児セラピスト・後期課程(1級)を受講したそうです。そして、さらに、これまでやってきた体操を、親子のアタッチメントの営みとして学び直すために、アタッチメント・ジム、キッズマッサージを受講しました。
いざ講座で学術背景を学んでみると、自分が直感的に感じていたことに、理論の裏付けが付き、何となく思っていたぼんやりした思いが、明確な言語として理解できたのを感じたそうです。例えば、当然出来ていてもよい年齢になっても、自力でお母さんにしがみつくことが出来ない子どもは、抱っこされたり、おんぶされたりした体験が少ないまま大きくなってしまった。それは、単に「筋力が育っていない」という問題ではなく、母子関係の問題が横たわっていた訳です。迫るボールに対応できない子どもは、その子が、ゲームばかりやっていたことと関連付き、現実の動くモノで遊んだ経験が乏しかったため、体も脳も反応できなかったわけですが、これも、本来なら親子でそうした遊びをする中で自然と身についていくものであり、そうした体験をスキップしている親子関係に問題が横たわっています。こうした親子関係の貧弱さは、子どもの発達を阻むだけでなく、母親の精神の不安定性という問題もはらんでいるわけです。そうしたことが、言語化して理解できたとき、西鷹さんのこれからの体操の先生としての新しい方向性が見えてきたそうです。
西鷹さんは、早速、体操クラブのそれぞれの年齢のクラスのカリキュラムで、ベビーマッサージやキッズマッサージ、アタッチメント・ジムを導入し、さらに、お母さんの悩みを聞いてあげるカウンセリングを取り入れました。
そして、西鷹さんのクラスは、子どもに体操をさせるのではなく、親子で体操を楽しむスタイルに変わりました。例えば、自分の体を自分で支えられるようになるためには、鉄棒を練習するよりも、「ママ鉄棒」で、ふれあいながら、お母さんに助けてもらいながら身に付けます。
こうした親子体操を導入してからは、跳び箱や鉄棒への移行が、よりスムーズになったそうです。
また、お母さんの悩み相談を聞いてあげる際には、カウンセリング手法を学んだおかげで、適切にアドバイスすることが出来て、お母さんが元気になっただけでなく、お子さんの表情や行動も変化したそうです。
そんな西鷹さんも、実は生まれた時からヤンチャな息子さんの育児に悩んできた母親の一人であり、自らの育児に後悔してきた母親だったそうです。それでも、学んできた学術理論が、心の支えとなり、自らの育児にもOKを出せるようになったと言います。
そして、「もっと早く知識があれば、もっと親子の笑顔が作れたかな」と思うこともあるそうです。だからこそ、体操を通して親子のアタッチメントを育み、自分を守る基本動作の習得や運動の礎を作ってあげる指導者になりたいと、そんな心の教育が出来る体操の指導者でありたい、と決意を新たにしているそうです。
西鷹さんの事例が教えてくれるのは、直感的にわかっていることや、体でわかっていること、何となくの思い、そうしたものに理論が身につけば、さらに大きな世界観に入り、さらに大きな価値を生むことが出来るということだと思います。本格的な体操の先生が、「心の教育」という視点を身に付けたことで、体操は、人間教育そのものにまで昇華されるということです。
よく考えると、そもそもスポーツというのは(武道も同じだと思いますが)、技を磨くのではなく、人間を磨いた結果として、技が磨かれるのですよね。西鷹さんの見つけた価値は、そんなスポーツの本質であり、これからの人生をかけるにふさわしいものだと感じました。